ノウヒン

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「お待たせしました」 かなたは二皿をテーブルに運んできた。 「すごい。レストランみたいですね」 ナポリタンの具はスライスしたソーセージにピーマンにタマネギ。彼女はいつの間にかトマトとレタスのサラダも別皿に作っていた。 「昭和の喫茶店風にしてみました」 「こんなに太いパスタ買い置きしてないはずですけど」 「茹で時間を長めにしたんです」 「なるほど」 彼女は自分の分もテーブルに持って来て席に着いた。彼女には一緒に食事をしてもらうように設定ししてある。作ってもらって僕一人で食べるのは彼女をメイド扱いしているみたいで嫌だった。僕は彼女と普通に同居生活を楽しみたいのだ。 アンドロイドが食事をするのは無駄な気もするが、彼らにも味覚はある。しかも人間よりも正確だ。咀嚼し食道を通過した食物はフードプロセッサーのような装置で粉々にされ排泄される。栄養素が吸収されないだけで人間とやっていることはさして変わらない。食事を楽しいものにしてくれるのだから良いじゃないかと思う。無駄に過剰な量を摂取している人間よりはずっとマシなような気がする。 「いただきます」 かなたは僕の表情を観察している。昭和の喫茶店なんてもちろん知らないけど、不思議と昔なつかしい味がする。麺はモチモチしていて味はまろやかでただのケチャップ味ではない。バターの風味もする。しっかりと味付けしているのに濃すぎないし、油っぽくもない。完璧に調整されている。 「美味しい!僕の好きな味です。魔法みたいだ」 「良かった!ユウトさんの味の好みは頭に入っています。これからも好みに合わせて作りますね。もちろん健康には配慮しますけど」 彼女は子供のように喜んだ。笑顔が弾けた。そう言えば初期設定の際に味覚のアンケートに答えたのだった。これからは毎日美味しい食事にありつけそうだ。
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