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浦島太郎は誘惑に負け、乙姫さまにもらった玉手箱を開けてしまいました。
すると煙とともに、あっという間に老人の姿に変わってしまいます。
骨ばって血管が浮いた手、カサカサと脂っけのない腕、弾力性を失い痩せ衰えた脚。
つい先ほどまで精悍な若者であった浦島太郎は、自身の姿のあまりの変わりようにすっかり絶望し、浜辺に座り込んで涙を流し、嘆き悲しんでいました。
「もし、もし。どうなされた」
浦島太郎が顔を上げると、そこにいたのは誰あろう、あの助けた亀であった。
「お、お前は……」
「はい、あなた様にお助けいただいた亀でございます。太郎さん、あなたは、お年を召したことがそんなに悲しいというのですか」
「あたり前だろう、私の若さは永遠に失われてしまったのだ」
すると亀は、落ち着いた様子でこう言いました。
「われわれ亀は、万年生きると言われるほど長生きを致します。しかしずっとこの見た目のまま、若くても年をとっても同じこと。でもそれが何でしょう。命さえあれば、私は十分幸せなのでございます。
見た目にばかり気を取られているのは、人間だけのようですよ。現にあなたは、肉体的には健康で、元気も十分にあるはずです」
言われてみれば、痛みなどがあるわけでなし、まだまだ働けそうな力が、体じゅうにみなぎるのを感じる浦島太郎であった。
「亀よ、お前の言う通りだ。わたしが浅はかだった。これからは、この私の故郷で、せいぜい皆の役に立てるよう死ぬまで精進するよ」
亀は静かにうなずくと、海に向かってゆっくりと帰っていきました。
完
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