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だけどその横顔からは、自身への絶対的な信頼や、揺るぎなさを感じた。
その強さがほんの少し、リョウジと重なった。
リョウジと、真夜さんと……一緒にいたい……。そう思っていて、良いの……?
本当に……全てを決めて良いなら、僕は――。
――皆と一緒にいたい。
雨が急に大きくリアルに聴こえてきた。
今ここの世界に、ようやく戻ってきた感じだった。
「――少しはマシな顔になったな」
声に反応して、再び彼を見上げた。
眼帯の人は数歩僕の側に近づくと、傘を僕の方に差し出した。傘の柄と彼の顔を交互に見比べる僕に、彼は僕の腕に手を伸ばしてその柄を握らせた。
「あ……だ、駄目、です……」
あなたが濡れてしまう……。そう言おうとした時、トラックが前を通過した。水飛沫と風圧を大いに上げ去って行く。傘が飛ばないように僕は一瞬ギュッと柄を握り、強い風に目を瞑った。
風が止んで、目を開けると驚いた。
眼帯の人の姿は、そこにはもうなかった。
煙のように搔き消えていた。いつかのように。
また、だ――。
僕は少しの間、降りしきる雨の音を聞きながら、自分の身には余る大きな傘を持って、その場に一人立ち尽くした。
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