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「あれぇ、もしかして羨ましいの?」
「はぁ?」
灯の台詞に何を言ってるんだ、という顔をして燿が振り返った。
「私だけ望の弓の稽古を見てきたのが羨ましいんでしょ? 耀ちゃん、昔はお兄ちゃん子だったもんね〜」
「なっ!?」
絶句する燿をよそに、
「小さい頃はいつも、『待ってぇ、お兄ちゃん~』って望の後ろばっか追いかけてたもんねぇ」
「うん、そんな頃もあったね……」
あの頃の燿は、今とは信じられないくらい素直で、それはもう目に入れても痛くないくらい可愛かった……。
と、遠い目をしていたら、燿に物凄い目で睨まれた。
「そうそう。それなのに一人だけのけものにされて寂しかったのね。
燿がそーんなに寂しがり屋だったなんて知らなかった! 気が付かなくて、ごめんね?」
灯は顔の前で両手を合わせながら、男性を誘惑する際の可愛らしく小首を傾げた上目遣いで燿を見た。
……彼女の本質を嫌と言うほどよく知ってる弟に対してじゃ、効力は無いに等しいけど。
なんにせよ、先程の不満を晴らすべく投下した特大の爆弾は、しっかりと燿にダメージを与えたらしい。
燿が小さい頃、僕によく懐いてどこに行くにも一緒に付いてくるような子だったことは、今の彼の中では黒歴史らしいから。
燿は顔を紅潮させ、ぶるぶると震えている。
怒りの為か、羞恥でか。…恐らく両方だ。
「こ、こ、この女……ッ!!」
燿が灯に殴りかかろうとしたので、僕は急いで割って入り、燿を羽交い締めにした。
「わーーっ!ダメダメダメ! ちょっ、ちょっと! 落ち着いて燿!」
「離せ兄貴! 今日こそ、この女を殺ってやる!!」
ジタバタと暴れる燿を抑えようと格闘する僕等を尻目に、灯は実に楽しそうに、「もう、耀ちゃんたら何をそんなに怒ってるの?」と悪魔的な笑顔で笑っていた。
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