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カツッ、と乾いた音と同時に一本の矢が的を射た。
矢が刺さったのは中心のやや右端辺り。悪くない中あたりだ。続けてもう一本、弓を引く。
今度は先程よりも的の中心に矢が刺さる。
新しい矢を手にしてつがえると、僕は限界まで弓をしならせて引き、矢を
放った。
―――中る。
良い引きの感覚がした。
そして予想通り、矢は的のほぼ中心へと吸い込まれるように飛んで行った。
僕はホッと息を吐つくと、構えていた弓から片手を静かに下ろした。
久しぶりに道着に袖を通して弓を引いて、満足感でいっぱいだった。
誰もいない的場へ向かって一歩下がり、深々と一礼する。
すると、誰もいないはずの道場から突然、パチパチパチという拍手が聞こえてきた。
そちらを振り返ると、道場の入り口にいつの間にかブレザーの制服を着た女の子が立っていて、僕に向かって拍手をしている。
「良い引き、さすが望ね」
「――灯」
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