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「全然衰えてないじゃない。相変わらず綺麗な射をしてるわ」
にっこりと笑いながら妹に褒められて、僕は思わず照れて苦笑いした。
僕は二宮 望。
十五歳の高校生一年生だ。
「どうしたの? こんな所まで。僕に何か用事でも?」
今いるのは去年まで通っていた皇青中学の弓道部の道場で、弓道部の部員だった僕が、三年間通った思い出深い場所である。
現在僕が通っている中高一貫の皇青高校は進学校で、スポーツより勉学の方に力を入れている。卒業してから高校で部活に入らなかった僕は、たまに弓の練習をするために今日みたいに部員がほとんどいないテスト期間中や休日に顧問の先生にお願いして道場を貸してもらっていたのだ。
高校の校舎は中学の近くに建てられているからすぐに行けるし、有り難いことこの上なかった。
「用事がなきゃ来ちゃいけない? 望のことだから、どうせ学校終わりにココに寄ってるんじゃないかって思ったの。当たりだったでしょう?」
年齢よりもだいぶ大人っぽく笑うこの娘は二宮 灯。
僕の妹だ。
一つ年下の中学三年生で、市内では割と有名な名門女子中学校に通っている。
僕より少しだけ長いふわりとしたショートカットの栗色の髪に、ぱっちりとした二重の猫のような瞳。
アカデミックなブレザーの制服に首を傾げて小悪魔的に笑う姿は、赤の他人の男だったら一発で虜にされるだろう。
まあ、あいにく兄である僕はそんな気持ちには微塵もならないけれど。
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