20話 友達の意義

19/21
前へ
/347ページ
次へ
いつかの時と全く同じ、左目を革の眼帯で隠した美貌の青年が、その冷めた隻眼を僕に向けていた。 どうして、この人がここにいるんだろう? ぼんやりと考えていると、 「……濡れるのが趣味なのか?」 ただただ呆けている僕に、眼帯の人は苛立ったように眉根を僅かに寄せた。 「変わった奴だな」と、大いに皮肉を含みながら聞いてくる。 僕はそれに、薄く笑った。それにはどこか自嘲も混じっていた。 「傘を持って来るのを忘れて……。でも、別に良いんです。そんなこと……」 そう、そんな事はどうでも良い。 いま、この心を占める悲痛さに比べれば――。 どこか投げやりな僕の答えに、眼帯の人は奇妙な物を見る顔で黙った。 沈黙の時間が流れ、雨音だけが鳴り続けていた。 何か僕に用でもあるのか? その場にただ佇んでいる彼に頭の隅で不思議に思いながらも、 「大事な……友達がいたんです」 気が付いたら、そう口を付いて出ていた。
/347ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加