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いつかの時と全く同じ、左目を革の眼帯で隠した美貌の青年が、その冷めた隻眼を僕に向けていた。
どうして、この人がここにいるんだろう?
ぼんやりと考えていると、
「……濡れるのが趣味なのか?」
ただただ呆けている僕に、眼帯の人は苛立ったように眉根を僅かに寄せた。
「変わった奴だな」と、大いに皮肉を含みながら聞いてくる。
僕はそれに、薄く笑った。それにはどこか自嘲も混じっていた。
「傘を持って来るのを忘れて……。でも、別に良いんです。そんなこと……」
そう、そんな事はどうでも良い。
いま、この心を占める悲痛さに比べれば――。
どこか投げやりな僕の答えに、眼帯の人は奇妙な物を見る顔で黙った。
沈黙の時間が流れ、雨音だけが鳴り続けていた。
何か僕に用でもあるのか? その場にただ佇んでいる彼に頭の隅で不思議に思いながらも、
「大事な……友達がいたんです」
気が付いたら、そう口を付いて出ていた。
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