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「もったいないの」
夕暮れに染まる校舎を出る途中で、灯が呟いた。
僕は意味を捉えきれず、彼女に問い返す。
「え? 何が?」
「弓道よ。そんなに好きなら続ければ良いのにもったいない。どうして辞めちゃったの?」
灯の言葉に、僕は人差し指で頬を掻きながら困り顔で笑った。
「……仕方ないよ。再来年は大学受験もあるし、高校では勉強の方を優先させたかったんだ」
「望の成績なら部活と両立も充分できたと思うけど?」
「それだけじゃないよ。また体調が悪くなって倒れたりしたら、その度に部活動の皆に迷惑がかかる。――嫌なんだ。そういうのは」
僕の答えに、灯はまだ納得がいかないという顔をしている。
「……かけたって良いのに」
「灯……」
「望は真面目過ぎなの! やりたいなら他人に気ばっか使ってないでやればいいのよ!」
灯はふくれっ面をして、僕より僕のことで怒っている。その顔を見て、僕はすごく複雑な気分になった。
――僕だって、本当は続けたかったよ。
けど、理由が理由なだけに、仕方がないんだと思ってる。
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