72人が本棚に入れています
本棚に追加
「灯、もうその辺にしときなよ」
僕は燿が気の毒になって、助け舟を出した。
灯の愛情表現は少し屈折した所があるし、弁も立つから二人が喧嘩のようになった時はどちらかというと、僕は不利になりやすい燿の味方をするようにしている。
でもそれが、いつも灯には面白くないらしい。
今も不満気な顔をしているのが目の端に映ってはいるが、とりあえずは燿の方だ。
僕は彼に笑いかけて、声をかけた。
「お帰り燿。偶然だね、僕達もちょうど今帰りなんだ。」
「……ああ」
僕がそう言うと燿はバツが悪そうな顔になり、くるっと背を向けて歩き出してしまった。
彼はここ一、二年前からと言うもの、絶賛反抗期中だ。
僕に対して無愛想なのも、相変わらずだった。
でも今日は返事が帰って来るだけマシな方なので、後ろを歩きながら会話を続ける。
「今日は遅かったんだね。学校で何か用事でもあった?」
「…別に、何も。そっちこそなんで一緒なんだよ?」
「うん、久しぶりに道場で練習させてもらってたら、灯が来てさ」
「……へぇー」
「望の弓道の練習を観に行っただけ。楽しかったなー。ね、望?」
「灯……」
練習していただけで、別段そんな楽しいものでもなかったのに…。あからさまに燿に当てつけるように話すので、僕はヒヤヒヤしてしまう。
案の定、表情で燿がイラっとしてきてるのがわかった。
「フンッ、兄妹でよく一緒に帰って来れるな……。恥ずかしくねぇのかよ」
ボソッと悪態をついてくる。
「確かに言われてみるとそうなのかもね。でもまあ、仲が悪いよりは良い方がずっといいと思うけどな」
「……そういうことじゃねぇよ!」
「あ、そう? ごめんね、分かんなくて」
彼の意図が察せられず済まなそうに僕が答えると、燿は更に険しい顔になってそっぽを向いてしまった。
……うーん、どんな風に答えるのが正解だったのだろう?
最初のコメントを投稿しよう!