1話 弓射る少年  

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「灯、もうその辺にしときなよ」 僕は燿が気の毒になって、助け舟を出した。 灯の愛情表現は少し屈折した所があるし、弁も立つから二人が喧嘩のようになった時はどちらかというと、僕は不利になりやすい燿の味方をするようにしている。 でもそれが、いつも灯には面白くないらしい。 今も不満気な顔をしているのが目の端に映ってはいるが、とりあえずは燿の方だ。 僕は彼に笑いかけて、声をかけた。 「お帰り燿。偶然だね、僕達もちょうど今帰りなんだ。」 「……ああ」 僕がそう言うと燿はバツが悪そうな顔になり、くるっと背を向けて歩き出してしまった。 彼はここ一、二年前からと言うもの、絶賛反抗期中だ。 僕に対して無愛想なのも、相変わらずだった。 でも今日は返事が帰って来るだけマシな方なので、後ろを歩きながら会話を続ける。 「今日は遅かったんだね。学校で何か用事でもあった?」 「…別に、何も。そっちこそなんで一緒なんだよ?」 「うん、久しぶりに道場で練習させてもらってたら、灯が来てさ」 「……へぇー」 「望の弓道の練習を観に行っただけ。楽しかったなー。ね、望?」 「灯……」 練習していただけで、別段そんな楽しいものでもなかったのに…。あからさまに燿に当てつけるように話すので、僕はヒヤヒヤしてしまう。 案の定、表情で燿がイラっとしてきてるのがわかった。 「フンッ、兄妹でよく一緒に帰って来れるな……。恥ずかしくねぇのかよ」 ボソッと悪態をついてくる。 「確かに言われてみるとそうなのかもね。でもまあ、仲が悪いよりは良い方がずっといいと思うけどな」 「……そういうことじゃねぇよ!」 「あ、そう? ごめんね、分かんなくて」 彼の意図が察せられず済まなそうに僕が答えると、燿は更に険しい顔になってそっぽを向いてしまった。 ……うーん、どんな風に答えるのが正解だったのだろう?
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