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いち
あたしが、あなたを見つけたの──。
まだ少年だったあなたをに出会って、あたしが「この子が飼い主だ」って決めたのよ。
あなたに初めて出会ったのは、夕焼けの空がバカみたいに美しい、秋の夕暮れ時だったわ。
男の子が泣きながら、とぼとぼ歩いてた。背中に背負った黒いランドセルが、寂しそうにかたかたと揺れていた。涙を手で拭いながら歩くものだから、電信柱にぶつかりそうだった。
思わず、「あぶないわよ、前、見て!」って叫んだわ。
もっとも、あなたには「ニャーニャー!」としか聞こえなかったと思うけど。
そしたら、あなたはあたしを見つけてくれた。
『猫だ。捨て猫かな?』
……ちがうわよ。あたしがアイツらを捨ててやったの。あたしの飼い主にふさわしくないんだもの。ゴミと一緒に、あたしを段ボールに入れて、ポイってするヤツらなのよ?
『かわいい猫。いいなぁ、飼いたい……』
うん、あなたがいいわ。
ひと目見て、決めたの。あなたが飼い主だって。
『お母さん、怒るかなぁ? 連れて帰るの、やっぱり止めようかなぁ?』
この子ってば、なかなか決断できない子なのね。あたしはあなたに飼ってもらいたいのに。
あたしはぴょいと段ボールを飛び越えると、男の子の胸元に飛び込んだ。
『わっ!』
男の子の胸元にしがみつくと、ゴロゴロすりすり。そしてあなたをそっと見上げると、『にゃーん』と甘い声で鳴いた。ちょっとだけ、頭を傾げるのも忘れない。
『うわぁぁぁ、かわいい……。ダメだ、このまま捨てておけない!』
この日から、あたしはあなたの、勇斗の猫になった。
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