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神様だからってなんでもできるわけじゃないもん。
4月3日(土)
桜の見頃は一週間後らしい。
FMラジオから流れる情報を聞きながら、中学校の国語教師である短伽譚人は目的地へと車を走らせていた。
そこは、「おいぬさま」と呼ばれる狼が眠る史跡。
訪れる人の少ない、しかし雪の残った山々を見渡せる、お気に入りの場所だった。
今日そこで起きる出来事を、譚人は知る由もない……。
*
和歌の神様である衣通姫は、うずうずしていた。
ふと、人の世を見たくなったのだ。
「前に見たのはいつだったかなぁ……」
何百年振りだろうか。
刺激が欲しくてうずうずしていた衣通姫は、もう我慢できなかった。
「ちょーっと行ってくるね~」
そんな軽いノリで、ひょいっと神々の住む天の原を飛び出した。
飛び出した、までは良かったが……あまりに久し振りのことで体が言うことを聞かない。
「あれれっ……空ってこんなに風強かった?」
上も下も、右も左も分からないままその身を漂わせ……いや、まったく思うように動けない。
「はにゃ~~」
と、やがて衣通姫はきれいに意識を失った。
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