ノブレスオブリージュの精神は金の肉体に宿る

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 いつの頃だか分かりませんが、或る銀河の外れに地球に似た星が有りました。その星に王さまが統治する国が有りました。その国は王子さまがはいはいから何かに捕まって立ち上がれるようになった頃に新型コロナウィルスと同じようなウィルスが発生し、その後、感染拡大してしまいました。ですから王さまは王子さまを感染させまいと召使の養育係教育係に王子さまを王宮外に決して出さず常に王宮内で養い遊ばせ教育しろと命じました。  王宮内には遊戯施設が充実していましたし、王族の子供たちも沢山いましたので王子さまは毎日遊ぶことに事欠きませんでした。その上、毎日、御馳走や美味しいおやつを食べられましたし、上等の衣服や高価なおもちゃを与えられましたし、勉強も運動も十分できましたから国民が苦しむのを余所に何不自由なく楽しく過ごせました。また、教育係が熱心に道徳を教えてくれましたので王子さまは心優しい精神を身につけて行きました。  ところが王子さまは8歳の時に乗馬の練習中、落馬して呆気なく夭逝してしまいました。嘆き悲しんだ王さまは生前、外の世界を全く見られなかった王子さまの為に未来永劫外の世界を眺められるようにしてやろうと考え、王宮内に回転式の高い塔を建て天辺に台座を作ってその上に王子さまの鋳金像を建てるように召使の建築係彫刻係鋳金工芸係に命じました。  それで王子さまそっくりに等身大に象った鋳型に溶解した金を流し込んで鋳金することになりましたが、金が流し込まれる前、王様のたっての願いでよりリアルに鋳金像を作る為、鋳型の中に王子さまの遺骨一体を残らず入れておいたので出来上がった鋳金像は王子さまの本物の骨格が中に入っているのでした。そして目にはサファイアが埋め込まれました。王子さまは生前、瞳がサファイアのように青かったからです。  王子さまの鋳金像が実際に回転式の塔の上に立ったのは朝方でした。それは朝日を浴びてこの上なく光り輝き、王さまは在りし日の王子さまを見るようでありましたから涙を流しながら眺め、日が西に傾いて黄昏れた時には夕陽を浴びたので赤く光り輝くのを眺めました。その時、瞳がルビーのように赤くなりましたが、王さまを始め王宮の人々は夕陽を浴びているからだとばかり思いました。  けれども、それは違っていました。王さまによって発令された緊急事態宣言により経済活動が落ち込み失業者が急増し路上生活者が溢れる街の惨状を一望し続けた所為で目を赤く腫らして泣いていたからだったのです。つまり鋳金像には王子さまの情け深い魂が宿っていたのです。ですから金ばかりでなく流れる涙で光り輝いていたのでした。それは王子さまの優しさの表れでもありました。  その晩、王宮の人々も街の人々も寝静まった頃、夜空に黒い雲が立ち込めて来て雷鳴がとどろいたと思うと王子さまの鋳金像が立つ塔に稲妻が落ちてその威力で鋳金像が吹っ飛んで王宮外の街中の路上に落下してしまいました。けれども摂氏2万5千度もの稲妻の熱のお陰で金が柔らかくなったので鋳金像は動けるようになって立ち上がりました。そして折しも雨が降り出しましたが、ぬかるむ泥道を雨に打たれながら歩きだしたのです。彼は歩きながら喜捨するべく自分の骨格を覆う筋肉ならぬ金肉を適量捥ぎ取っては路上生活者のテントを始め貧しい人の家の中に放り込んで行きました。ですからそうする内、金肉の間から骨が見えてきました。それはもう痛々しいのを通り越して目も当てられない姿になって行きました。けれども、それは身を犠牲にする究極の健気な殊勝な姿でありました。そうして到頭、金肉がなくなって骨だけになると、シャレコウベの眼窩から両目のルビーを抜き取って路上生活者のテントの中に放り込んでやりました。その途端、何も見えなくなって動けなくなって路上に倒れてしまいました。その際の骨の音と言ったらありませんでした。  雨が上がった翌朝、路上生活者を始め貧しい人たちは金だ!金が手に入った!と大喜びして挙って貴金属買取業者の所へ行ってお金に変えてもらい、衣食住に困らなくなりました。そしてルビーを恵んでもらった者もその後、潤ったのですが、自分のテントの前に子供の白骨死体が転がっているのを発見したので震え上がってびっくり仰天してしまいました。  警察に通報したところ捜査の結果、路上生活者を始め貧しい人たちに金が行き渡った事実や王宮の塔の天辺にあった鋳金像がなくなった事実や街中の泥道に子供の足跡が無数に残っていた事実などから王子さまの遺骨であることが判明しました。  王子さまは教育係の教育により国王の嫡男たる尊き我が義務は国民を救うことにあると悟り、ノブレスオブリージュの精神を実行に移したのでした。  ですから王子さまは国民に尊敬され、王子さま万歳!と讃美の声が王宮の周りに巻き起こりました。それを耳にして王子さまの偉業を知った王さまは、王子さまの魂を鎮め安らかに眠らせる為、王宮内の土地に王子さまの遺骨を埋葬し、立派な墓を建てました。その後、王さまは王子さまを見習ってノブレスオブリージュの精神を発揮して政治を行うようになりました。  それを天国で王子さまは温かく見守っています。金の光よりも神々しく輝きながら。それは宇宙にあまねく行き渡る神さまの栄光であって神さまは何でもお見通しでありますから下界で世の為人の為に生きた者ほど光を受けられるのです。
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