瀬奥山トンネル

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無言が続く。道を照らす紅鉄の背後に藤林はつく。 先程と変化はない。だが雨ヶ崎らの道がどういった状況なのかは分からないため、これが本物なのか偽物なのかは断定出来ない。 照明が一つジジッと点灯した。 「……偽物ね」 「え?」 「歩いた距離を考えて、本物だったら今頃出口よ。梅雨達は無傷でしょーね」 紅鉄の歩みがピタリと止まる。その先へ視線を遣る。懐中電灯を先の地面向けて離した。カタンという音が辺りへ響く。 「さっさと出てきたらどう?ストーカー地味て気持ちが悪い」 (霊?全然視えねえじゃん……) 眉間に溝を掘る。藤林は忍者の家系であった事も関係し、産まれた時から霊が視えた。その為霊を祓うのは体に染み付いた事であり、こうやって就職が決まった時も困惑する事もなく、嬉しさが八割だった。 それは地方が舞台での話。都会とでは霊の種類が違う。 里などの古きからそういったものと関わりがある場合、多くは崇敬や畏怖が原動力だ。だが、現在信仰から人間は離れている。 その為、藤林が祓ってきた霊の多くは低級。稀に中級が出没するぐらいだ。 だから隠蔽術も、能力も低級より大いに勝ってる中級、高級が視えない。いくら霊が視える体質でも、霊の階級によりそれは異なる。 「恐怖が具現化したというより、ここで死んで離れられなくなった地縛霊ね……早苗、視えてないならはっきり言ったらどう?成長しないわよ」 紅鉄はホルスターから拳銃を取り出すと、撃鉄を起こし引き金を引いた。 突然の爆音に思わず藤林は目を瞑った。数秒後、先程まで聞こえなかったぺたぺたと張り付くような音が鼓膜に届く。藤林はそれに釣られゆっくり目蓋を開ける。 人型であった。 無造作に伸ばされた黒髪は顔全体を覆い、場違いなピンクのパーティードレスに身を包む女性だ。 だが生者とは思えず、底冷えするような空気が彼女を中心に伝播していく。 「ア゛ァァ゛……アンタ、キライ。アタシとオナジコト、アエ」 髪の合間から、殺気走った目が覗いた。その直後、地面から手が伸びて来る。紅鉄は軽やかなステップで避けるが、藤林は足首を掴まれる。順に手首、脇腹、肩にも手が伸びる。 もう一度、銃声が鳴り響いた。それは右手と、足首を掴む手を撃ち抜いた。 藤林は苦無(クナイ)を太股から抜くと、片手で霊の手首を掻っ切り敵から距離を取った。 「ありがとうございます。茜さん」 「礼を言うならその分の仕事をしなさい。次、来るわよ」 霊の醜い叫びの後、地面から再び否応無しに手は伸びて来る。 彼女らは的確に足首を狙う手を避けるため、また軽やかにジャンプした。
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