秘めるもの、狙うもの

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薄暗い部屋。四面全てが黒だった。その所為か部屋は本来の明るさよりも暗く見える。等間隔に置かれた蝋燭はある場所で並びが途切れる。そこは部屋と同じ黒のソファーが置かれている場所。そこに腰掛ける一人の人物。 「ふーん……面白い子じゃないか。やっぱり、霊課の課長は視る眼が確かだね。それに七草の同輩と来た。あの子にとって良い刺激になりそうだ……」 穏やかな口調の彼は口元に弧を描く。烏のような漆黒を身に纏う。だが黒装束の中で異様に目立つのは帯の部分であった。錦糸の刺繍が入りその人物の高貴さを表す。 「誰だ?」 じんわりと耳に残る低音は少量の鋭さを持ち、暗闇に呼び掛ける。返事の代わりに返って来たのは暗闇から浮き出て来る黒子。 「あぁ、君かい……」 「お声掛けせず、申し訳御座いませぬ」 「構わないよ。私も気が立ってるようだ。それでは」 「霊課の言葉によると、彼には何かしら元一般人とは異なるところがあるようです。(わたくし)も目視で確認致しましたが、言葉に嘘は御座いませぬ。途轍もなく大きな気配を感じますが、隠蔽能力が高いのか正体は不明です」 「それは私も確認した。まあこの眼で、という訳では無いんだけれど。 その正体が何だとしても、我々『呪禁館(ジュゴンカン)』にとって大きな役割を果たすのは間違いないよ。引き続き観察を続けてくれ」 「はっ」という言葉を最後に黒子は再び影へ潜む。彼は一人残された部屋でほくそ笑む。 「正体不明の元一般人、伊賀上御三家の娘、元頭陰陽師の血縁者、そして七草……陰陽寮は良い人材ばかり取っていくね。 あぁ、益々欲しくなる……闘う事にもなるだろうね。あぁ、愉しみだ」 愉快な笑いが無音の部屋に響き渡った。
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