秘めるもの、狙うもの

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ネクタイを結び、ジャケットを羽織る。 今日何度目か分からない欠伸が出る。場所が変わった所為なのか、眠りが浅かった。それと共にぼんやりと空げな記憶だが、誰かと話す夢を見た。 (色々分かんねえし……あ゛ぁ……モヤモヤする……) 勤務二日目。昨晩、雨ヶ崎に案内された寮は霊視特務課専用のもので、規模はそこまで大きくは無かった。そして年季も職場を見た後では予想通りのものであった。個室、共同のキッチンスペース、男女別の浴場。至って普通の寮だ。 「金曜日……がんばろ……」 ドアノブを押し回す。ガコンという音ともに扉が途中で止まり、散漫していた意識を呼び戻す。顔を上げ映ったのは全身黒装束の顔半分を雑面が顔半分を覆う青年。口元は不服そうに口角が下がっている。 「あ……」 「ったく、オマエか。人の身体に扉を当てて満足か?」 「ごめん!態とじゃないから」 「態とだったら殺している。どうしてオマエにこんなにも遭遇するんだ」 (殺すとか、不穏すぎだろ……) 烏丸は深く溜息を吐くと、歩き出す。静希は鍵を閉め急いで彼の元へ駆ける。隣に並んだところ、烏丸に体を押され弾かれる。 「何故オマエと一緒に行かなければならない。遅れて来い」 「はぁ?良いだろ別に。たまたま会ったんだから」 「百歩譲って共に移動する事は許可する。だが、隣を歩くな。話し掛けるな。この二点を守れ」 一方的に伝えると烏丸はそそくさ歩き始める。烏丸の態度が気に食わないが向かう場所は同じため不本意ながら後ろを追う。 (こいつ、姿勢良いよな……軸が安定しているっうか……) 背は真っ直ぐに伸び、背骨を軸とし歪むことが無い。重心の掛け方が違う事は一目で分かる。 烏丸の後姿を観察し、静希はしみじみ考えた。 「おはようございまーす……」 烏丸の開けた扉の後に静希も続く。出勤していたのは静希、烏丸を除く昨日挨拶をした全員であった。だが昨日のゆとりのある雰囲気とは異なり、例外を除き何処か慌ただしく騒がしい。昨日がイレギュラーであったのかもしれないが、それでも少し可笑しいとは静希は感じた。 「あぁ、おはよう。昨日はちゃんと休めたかい?」 多忙な様子が見えていないかのように、一人ソファーでくつろぐ青年。例外である三日月は呑気に静希らの挨拶に応えた。 「まあ。今日どうしたんすか?忙しそうに見えるんですけど……」 先程も見覚えの無い人間が駆け込んで来て、焦る彼女を百鬼は冷静に宥めていた。夏目も書類を持ち頻繁に出入りし、他にも知らない人間が何人も出入りする。その為出入り口付近は大変人の出入りが激しい。 手伝うべきなのは理解しているが状況が不明では何も出来ない。話を聞く為と職務の邪魔をしないようソファーの方へそっと寄った。 「あぁ、それね。陰陽寮配下の非陰陽師と呪禁館の下っ端がバチっちゃって『抗争』の火種になるかもって朝から大忙しだよ」 「ジュゴンカン?抗争?」 「オマエ、そんなのも知らぬのか」 「お前と違って俺、一昨日まで一般人だったんですー!」 「はいはい。僕が今から説明するから」 場を切り替えるよう三日月は軽く二回手を叩く。そこで彼らの会話は終わらざるを得なかった。その後正面のソファーへ座れと指示された為、周りの雰囲気に申し訳なさを抱きながらも腰掛けた。
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