第一章 陰陽寮「霊視特務課」

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『陰陽寮』 東京郊外。最寄り駅から徒歩三十分。 そこは職場なのかと疑うほど、年季の入った和風建築の建物だった。 どちらかというと、寺や神社と言われた方が納得出来る。 周りを黒塗りの門で囲まれた敷地。葛葉静希(クズハシズキ)の前に聳え立つ同じく黒の門は風を通さないのでは無いかと思う程、重く頑丈に閉められていた。 静希達が集合場所に指定されたのはここであった。 (厚生労働省とか文部科学省は近代的だよな……あれと同等の省庁って本当か?) 「オマエも霊視特務課(ここ)で働く人間か?」 突然の声に肩を揺らしながらもそちらを向くと、黒の日傘を差す人物が立っていた。 一言で言うと不気味だった。日傘の具合で鼻先から上は伺えないが、陰陽寮から葛葉へ支給された制服と類似の物を身に付けていることから霊視特務課で働く一人なのだろう。だが全身黒を纏い、影と同化するようであった。 (男……か?つかあんま真っ黒で暑くねえのかよ。職員か分からずにこんな山奥で声掛けられたらホラー以外の何者でもねえぞ……) 見た目からは性別は判断できないが、体格と声からして男性だろう。 「そうだけど、あんたは?」 「恐らくオマエの同期だろう。名乗っておいて損は無い。 烏丸七草(カラスマルナナクサ)だ」 「烏丸……変わった名前だな。俺は葛葉静希(クズハシズキ)」 「オマエも大して変わらんだろう。にしても、変わった髪色だな。一房だけ白か」 葛葉の方から瞳は見えないが、どうやら彼方からこっちの顔は見えているらしい。彼は静希の黒髪に混じった白髪を話題に挙げる。 「あー、生まれつきこうなんだよ。つかその日傘どーいう事? 俺からお前の顔見えねえのに、お前からはこっち見えるのかよ」 「それは日傘ではなく、眼の問題だ。 烏丸の家系は眼を隠すのが普通だ。隠しても問題無いからな。 あぁ、使いに行っていた彼奴がそろそろ戻ってくるだろう」 その直後、周りにカァーっと鳴く烏の声がこだました。陰陽寮の敷地の方から飛んで来た烏は烏丸向かって下降して来る。 彼が左腕を伸ばすと、烏はそれを支えにし止まった。 「烏丸の名の由来となった烏だ。此奴の名は『黒光(クロビ)』。餌をやればオマエにも懐くぞ。 我々の血筋は烏と視界を共有する事ができる」 懐から取り出した笹の葉の小包を開くと正方形の物が多数現れた。 賽子状で一面、もしくは二面が茶色く他の面は白色だ。 (パンくずか?) それを数個掌へ転がすと烏、黒光の前に差し出した。黒光は長い嘴を器用に使い、胃にそれらを流し込んだ。 その時、重く頑丈な門がゆっくりと開き始めた。二人の意識はそこへ向く。 門の隙間は次第に大きくなり、その先に佇んでいる人影を捉えた。 「初めまして。新人くん」
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