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「まず静希、僕たち陰陽寮の行動原理が分かるかい?」
「へっ?うーん……霊から人間を守る?」
「大体正解。僕たち陰陽師は呪術を人間たちの為に使う。それが陰陽師の行動原理だ。けど呪禁師と呼ばれる陰陽寮に刃向かう陰陽師は根本が違う。食物連鎖の頂点は霊。非陰陽師が適うはずもない。真の食物連鎖連鎖の頂点は霊の更に上に立つ陰陽師だと。
陰陽師界を牽引する『陰陽寮』と呪禁師の団体『呪禁館』は頭を変え長年競い合っていた。どちらの思考が正しいかね。
陰陽寮の『陰陽師は人間の為に』か、呪禁館の『人間は陰陽師の為に』か。
その大規模な陰陽師同士の対決の事を『抗争』と呼ぶ。
呪禁館は人助けしてないから暇だろうけど、陰陽寮は人助けしてるし、この繁盛期のタイミングで抗争が被るといよいよパンクする」
大袈裟に溜息を吐き、眉を下げ笑う。「そう言う本人は寛いでますよね」そう突っ込みたいのを堪え、慌ただしい理由を尋ねる。
「だからこんなにも忙しそうなんですか?」
「まあそれだけじゃないけど、君たちはこの段階で知らなくて良い事さ。
藍ちゃんが物凄い形相でこっち睨んでるからさっさと仕事してきな」
三日月の言葉に背筋が固まる。恐る恐る背後を振り向く。そこには三日月の言葉通り眉間に皺を寄せ腕を組む百鬼。物怖じ、静希は勢い良く立ち上がり大きく挙手する。
「ひっ……百鬼サン、俺何やればいいですか!?」
「紅鉄さんの方に指示を仰いで下さい」
「分かりました!!紅鉄サン、俺何すればいいですか!」
逃げていくように紅鉄の方へ駆けて行く。百鬼は呆れたように溜め息一つ零すと三日月を見て口は真一文字を結んだ。
「三日月さん、仕事をして下さい。朝から来た高級、怨霊案件の任務を跳ね飛ばし寛ぐとは一体どういった思考回路をしてるんですか?」
「分かんないかなぁ、藍ちゃん。僕が最前線で監視してるって言うのに」
「はぁ」
眉間の皺がより一層濃くなる。三日月は両手を半上げし、お手上げと言うようなポーズを取る。
「僕が一つ助言をあげる。……呪禁館が動き出した」
辺りの喧騒が遠退いていく。百鬼の眼光が一際強く光る。
深く息を吸い込み、宙向かい吐き出した。一度長く瞬きをすると、焦点を三日月へ戻した。
「……目的は?」
「僕は全知全能の神じゃないからそこまでは分からないよ。ただ抗争が起きるべきして起きたのではなく呪禁館が意図的に仕掛けた、という事は確かだよ。優秀な藍ちゃんだったら、この時すべき行動の模範解答を出してくれるんじゃないの?」
「……陰陽寮への結界」
「ビンゴ」
「夏目くん、忌庫番に陰陽寮の敷地を囲うように竹結界を作るよう頼んで下さい!」
「は、はい!」
次の瞬間、書類整理をしていた夏目に百鬼は指示を出す。突然の声に一同の視線が百鬼へ集まる。つかさず他職員にも指令を下す。
「それと、全課に結界の通達を。早く、お願いします!!
紅鉄さん、私はこれから課長に結界術の事を交渉して来ます。あとは宜しくお願いします!」
口早にそう告げると慌てた様子でジャケットへ腕を通し、返事も聞かず部屋から飛び出した。
「え……」
あとを任された紅鉄が零した困惑の声は誰にも拾われず宙を漂った。
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