陰陽師戦闘態勢

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陰陽師戦闘態勢

静希は雨ヶ崎と共に陰陽寮本部とも言える山の頂上に聳え立つ建物へやって来ていた。理由は簡単。紅鉄から『霊課が溜めていた任務報告書の催促が煩いから提出して来い』と指令が下されたからだ。 この忙しい時に出す必要は無いのでは、と疑問を抱いたものの紅鉄曰く、霊課に任務を割り当てているのは本部の『陰陽師管理課』で任務報告書で現在手の空いている陰陽師を把握して指令を下しているようだ。 抗争のように長期戦に及ぶ可能性がある場合は、管理課がどの事態にも対応出来るようプランを立てており、それに報告書は必要不可欠になってくる。 (そんなら、報告書って結構大事なもんだよな……) 静希の右手に握られる紙袋の重みが増したように感じた。雨ヶ崎の下駄の音が止まる。その先には半透明の硝子戸。一度静希を捉えると、白い面は再び硝子戸の方を一心に見つめる。どうやら開けろとの事だ。 引き手に手を掛け左方へ引いた。案外動きはスムーズであった。 中は喧騒としていた。中で働く者達が身に付けるものは全て喪服の様なものに統一されている。パソコンの画面を睨みつける者、大量の書類を漁っている者、休む暇無く電話を掛けている者。特務課内よりも何倍も繁忙を極めている。此方に気付かないのがそれを示している。 これを渡すともっと忙しくなるのでは。思わず声を掛けるのが億劫になる。だがその心配を必要無かったようで通りすがった一人の女性が静希らの存在に気付いた。 「あ、なんか用っスか?」 頭部が色落ちし黒が薄っすらと覗く若い金髪の女性は気さくに話し掛けて来る。手に抱えられる大量の書類に目を背けたくなる。 「あ……霊視特務課なんすけど、これ溜めていた任務報告書です。すんません」 紙袋からクリップに止められた辞書ほどの分厚さの紙束を取り出す。彼女は僅かに首を傾げた直後合点する。 「あぁ……大丈夫っスよ。はい、確かに受け取ったっスよ」 「よっこらせ」という言葉と共に抱えていた書類の束をカウンターに置く。 その書類の束の上に更に報告書が積み重なる。高さとしては抱えた時に彼女の顎に当たるか当たらないかぐらいだ。 紙とはいえ重さは常人が二人で運ぶぐらいのもののはずだが顔を顰めることなく寧ろ笑顔で静希達に礼を言いその場を去って行った。 「……帰ります?」 雨ヶ崎に尋ねるとガラッと扉を引き、敷居を超えた。廊下で静希を待つ。 不気味な白面が真っ直ぐに此方を見る。雨ヶ崎の持つ威圧感のある独特な雰囲気に背筋を伸ばす。 空になった紙袋を握り直し、管理課の引き戸を閉めた。
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