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宙から空を覆うようにセピア色の幕が降りる。それは辺りの景色を飲み込み、視界に映る自然や建造物をもセピアを含んだ色味にする。まるで錆びた昔の写真のようだ。だがその違和感のある色味は霊視特務課の課長の結界が機能している事を示す。
「すげえ……」
それを眺めていた静希の口からは感嘆の声が漏れる。隣に立っていた三日月はくすっと笑いを零し説明を始める。
「うちの課長お得意の結界術。結界術ってのは不特定術式っていう妖力さえあれば誰でも使えるものだけど、課長は個種の術式として開花したから、範囲、識別者、周囲からの見え方などなど操作できるすっごい高度な結界術なんだよ」
「へえ……」
「あ、そうそう。新人のみんな〜、集まって〜……ってもう近くにいるか」
三日月は手招きし呼び掛ける。だが彼らは既に付近で仕事をしている。
不服そうな表情を見せ、三日月の方を向く。
「これから結界を自由に通り抜けられる方法を教えまーす。
まず課長の結界って、“未登録の妖力”に反応するの。登録されているのは現、陰陽寮職員のみ。
フリーの陰陽師だとか、太宰府の職員もいるけどそれは必要に応じてだね。
この世界、いつ誰が裏切るかなんて解らないんだから」
冗談のように言うが、意味ありげに細められた翠玉の瞳の奥深くに哀しみの色が浮かんでいるように静希は見えた。切り替えるように瞬きするとまた笑う。
「あと静希はまだ術式開花してないから、妖力の味ってのが分からないんだよね。だからジャジャーン!課長お手製の御守り〜!!」
何処かの国民的キャラクターを思わせる口調で懐から三日月が徐ろに取り出したのは小ぶりの朱色の巾着だった。純白と金の糸が交互に織り成し花弁の模様を描く。
「通り抜け可能な僕と結界作成者の課長の妖力を織り交ぜて作られたものだよ。簡単に言うと入場許可書みたいな感じ。
チョー強力な僕の妖力が入ってるから何かしらの手助けにはなると思う。
あとの三人は何にも要らないよ。既に登録済みだから今まで通り行き来してオッケー」
三日月のウインクに他三人は怪訝な顔を見せる。内心苦笑いしながら、静希は掌を広げた。そして三日月はその上に御守りを落とした。
その時だった。バチッと御守りと静希の掌で閃光が走った。静希は鋭い痛みに咄嗟に手を押さえた。御守りは地へと落下する。
「いった……!」
「静希!?……にしても何コレ……こんなこと起きたことないんだけど」
騒ぎに気付いた紅鉄が落下した御守りを拾い、隈なく観察する。
何かに気づき、目は見開かれる。
「ねえ、これどういう事?」
紅鉄が見せた御守りの裏、美しい上質な朱色の布に切り込みが入り、中に詰められた白い紙が覗く。切り込み部分は少し黒ずみ焦げ切れた事が分かる。
「ハハッ……」
口元を覆った三日月の口からは乾いた嗤いが溢れた。
「まさかこんな事になるとはなぁ……」
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