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「こんな事ってどういう事よ」
翠玉の瞳を三日月型に歪ませ、紅鉄の問いに愉快な口調で答え出した。
「妖力の衝突が起きたんだよ。さっきの閃光はそれ。
それで僕と課長の妖力が負けた。真逆こんな事になるなんてなぁ……」
再び嗤いが溢れる。
「あの、俺って妖力が分かんないからその御守り貰おうとしたんですよね?
なんで衝突なんて起きるんすか」
「さっきの妖力が分からないって言い方は語弊があるんだよね。課長から口止めされてるから僕らの口から細かい事は言えないけど。
静希はね、妖力が充分な量に達してないからじゃなくて、大き過ぎて分からないんだ」
「大き過ぎて?」
「例えば宇宙とか大き過ぎて境目は分かんないし、メカニズムも不明だ。
それと一緒。静希の妖力は大き過ぎて捉えどころがない。
だから分かんないの。
取り敢えずこれは回収。結界潜りの件は藍ちゃんと課長で話しておくね」
眉を下げ笑うと、御守りを懐に収めた。
突如発生した出来事に気を取られ、静希の口からは「はぁ」といった抜けた返事しか返せなかった。
「まあ取り合えず、そんな重く捉える必要はないよ。そういうのは先輩の仕事だ。どっちにしろ静希は近接も眼も弱いから任務には出せないし」
「え、昨日のは……」
「あれは課長の見立てが正しいかの答え合わせ。
あれで視えなかったり、呪符が使えなかったりだったら見立て違いで退職」
(こっわ……)
「……まあ真偽がハッキリした以上、七草。早苗。秤。そして静希」
ゆっくりと四人の名を呼ぶと澄み渡った翠玉の瞳に姿写し、口元に弧を描いた。
「君たちには静希が関わる未知の存在で人一倍の苦労を強いるかもしれない。陰陽師としてだけでなく、縺れた人間関係や仕事上の立場としても。
それによって苛まれる事も多いかもしれない。
それでも僕たちと馬鹿やって一緒に笑ってくれるかい?」
彼の口調は穏やかだけれども、軽い気持ちでは答えてはいけない厳かな雰囲気が含まれていた。
「……里でどれだけ苦労して生きてきたって思ってンだ。
流石に東京に来てからも体験するとは思わなかったが、任せておけ。
我慢は得意だ」
「正直、馬鹿やったりする、そういうのはどうでもいいです。
其奴がどういう奴かは二日目なんで全然知りませんが、俺が苦労してもいいって思える奴だって事は直感で分かります」
「内輪での揉め事など日常茶飯事だ。この坊主が俺の生活を歪めるのは気に食わないが、どうせ俺には陰陽師以外の選択肢がない。
好きにしろ」
三人の返答に三日月は満足そうに微笑む。
「静希」
「……この三人が俺のせいで、苦労しようとしてるのに自分だけ逃げるなんて馬鹿な話がありますか?分かんねえものは自分できっちりケリをつけるつもりっすよ」
「うん、良かった……みんな改めてよろしくね」
その言葉と裏腹に三日月の顔はどこか冷め、影が射していた。
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