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百鬼の指示通り、静希、藤林は夏目の元へ集う。二人の顔を見比べると、大口開けて笑った。
「うっし。俺、夏目龍之介な」
「ンな事知ってる」
馴染みのある端的で威圧的な口調で言葉は発せられる。夏目は口では「こえぇ」と言ってるものの顔にはそれを感じさせない苦笑いが浮かんでいる。
「ま、改めて俺から指導するのは視力だ。ぶっちゃけた話、三日月サンとかの方がずっと視えてきたから元一般人の俺より絶対眼はいいじゃん?
けど、視えてくるようになるプロセス?的なのは俺の方がはっきりしてるって事で俺が担当するぜ」
「オイ、葛葉がここに居るのは分かっけど、何で私がここに居ンだよ」
納得出来ないというように眉間に皺を寄せ、鋭い眼光を夏目へ向ける。
「あー……紅鉄が『伊賀は土地神が多い。けどそういう類も最近の信仰離れで低級霊、中級霊ぐらいの実力しか持たない。だから今回、高級霊に遭遇した時見えてなかったから眼を鍛えるべき』だって言ってたから」
「……茜さんが?」
藤林の語気が急激に落ち着く。
「そ。ちゃっちゃか始めるぞー」
夏目は二人を連れ、旧會館の外へと出る。囲む木々は騒めく。その合間合間から吹き抜ける風が頬を撫でた。
「何で外出たんすか?」
「やっぱ鍛えるなら実際に視るのが一番良いからな。あそこに社あんだろ?
俺たちはあそこでやんの」
木々が囲む境内にある旧會館。その二十メートルほど離れた場所に同じく古びた社があった。薄汚れた漆喰の壁に石瓦の屋根。
(いかにも出そうな……)
「……あの、一体、ここで何を……」
「ん?何って視力訓練に決まってるだろ」
恐る恐る尋ねた問いに夏目はけろっとした顔で答える。
(話が食い違っている気がする……)
その間違いを訂正出来ないまま、夏目によって社の戸は開かれる。
社の最奥、丁度真ん中辺りに古びた祠が設置されている。そこから黒く淀んだ何かが漂ってるのは静希も感じた。
「うえっ……ここにいるのは中級霊。この社から外に出れないように縛りが掛けられてるから安心しろよ。
この中に今から俺たち三人が入る。俺は目隠しを着けるからお前らが俺を霊のとこまで案内っうの?誘導して俺が祓えたらこの訓練は終了」
「へっ!?それじゃあ危険なんじゃ……」
「この世界、怪我してなんぼ。痛い目に合う、合わせるそういう責任があったらただ教えるのと比べて、吸収するスピードがレベチなんだよ。
気にすんなって。こんなんじゃ人間死なねえよ」
不安心な笑いを見せる夏目とともに社の敷居を越えた。
不思議な事に勝手に扉は閉まり、蝋燭に火が灯る。
充満する埃っぽく、冷え冷えした空気に鳥肌が立つ。
そこで夏目は黒の目隠しをポケットから取り出し、目に覆った。
「さてと。訓練開始だ」
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