第一章 陰陽寮「霊視特務課」

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「さて、一通り自己紹介終わったしそろそろ向かおうかな。特務課の面子を紹介しなきゃダメだしね」 ジャケットの内ポケットから朱色の壺を取り出すと、三日月はそれを静希達に立つ周辺に振りかけ、円を描く。壺を元の場所へ仕舞うと、彼自身もそこへ入る。 「僕がいいって言うまでこの円から出ちゃ駄目だからね。あ、目を瞑る事をお勧めするよ。乾燥するから」 彼は勢いよく掌を合わせた。パチンと乾いた音が響く。親指と人差し指の間あたりに口を近付けそっと息を吹き込んだ。 周りに風が吹き荒れ、景色は靄でぼやかされる。三日月の言っていた事が分かった。確かに強風で目が痛い。三日月の忠告に従い、静希は目を閉じた。 「はい、目開けていいよ」 ゆっくりと瞼を開ける。前に広がっていたのは、廃校のような古い建物だった。周りには自然が生い茂り、森を切り開いて作ったようなところにあった。 「古い」 藤林は顔を顰めながら呟いた。同感だというように、出雲も頷く。 「古い……ってのは認めるけどそんなストレートに言わなくて良くない?これからの君たちの職場だよ?」 「何で上京して来てこんな里と大して変わらないところで働かなきゃいけないんだよ。東京だっても、こんな田舎だし」 「まあまあ、東京も広いから。 ゴホン、気を取り直して!ここは霊視特務課の建物。陰陽寮の中では一番門に近い職場かな。天文暦部(テンモンコヨミブ)なんて術使わないと一時間ぐらいかかるんじゃないかな。何しろ一番上だから」 山の頂上に近い部分に立つ三階建程の巨大な屋敷のような建物を三日月は指差す。 「なんか新しいし、広くないか?」 「天文暦部(あそこ)は陰陽道を使ってるにしろ、一番近代的だからね。 それに陰陽寮上層部もいる。言ってしまえば霊視特務課(ここ)以外はほぼほぼあの建物に入ってる」 「はぁ?何、嫌われてんの?」 「うん。現在進行形で言うと大方僕のせい。僕、大体何でも出来るからやろうと思えば彼処に入ってる部署の仕事全部出来るからね。それに上層部に喧嘩吹っ掛けてるし」 悪びれる様子もなく、「ほんと、心狭いよね。僕いなきゃとっくにここなんか潰れてるのに」と冗談か本気か分からないような事を笑いながら言う。 「最悪。あんたのせいで、あんなとこで働かなきゃいけない訳?」 「まあまあ、落ち着いて。ここも案外いいよ」 「くだらない」 隣に立つ烏丸はそう一蹴すると、建物に向かってずかずかと歩き出す。 後ろを気にしている様子はなく、躊躇いなく歩みを進める。 「あ、ちょっと!」 三日月が駆け足で烏丸のところへ向かうため、静希達も慌てて駆け出した。
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