第一章 陰陽寮「霊視特務課」

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中はひんやりとしていた。周りが自然に囲まれていることもあるのか、暑いとは思わない。 隣を歩く烏丸を横目で見る。日傘を閉じ、眼が見えると思えば傘の下では黒無地の雑面が鼻に掛かる。やはり顔の全体像は伺えなかった。 「さぁて、今日は誰がいたかな〜?」 その言葉の後、「藍ちゃんは今日非番だし、世羅(セラ)も任務で……」と独り言をぶつぶつと呟く。 三日月の向かっている部屋なのだろうか。喧騒は近づくにつれ大きくなっていく。音から聞き取れるのは賑やかで楽しんでいるといった雰囲気だ。 その時ガタガタと慌しい音がし、廊下の先にある部屋、恐らく目的地からから人影が現れた。 人影は全部で三つ。手に札や拳銃のようなものが握っている者が二つ。止めようとあたふたしている者が一つ。だがそれは意味を持たず、一斉に静希達の方へ向けられていた。 和やかだった空気とは打って変わって、緊張した空気が辺りに伝播していく。 「ちょっとー?なぁに、新人怖がらせちゃってんの。ダメでしょー」 「退いてくんないかしら。あんただって、視えてるんでしょ?」 拳銃を持つ女性はそう言う。三日月は彼女の瞳を凝視すると、緊張を解すような微笑みを浮かべた。だがその顔には影が差している。 「当たり前じゃん。だけど、その事に関しては彼らが気付くまで触れないって言う約束だったはずだけど」 「確かにその約束は交わした。けど、大物過ぎる。危険だ」 「交わした記憶があるなら守ってよ。それとも僕と闘う?あの約束じゃ、僕は此方側だ。君たち、」 彼の口から発せられた『死ぬよ』には独特な響きがあった。 本気であるように聞こえ、どこか抜けている。まるで、戯れ気分で闘ったとしても彼らが負けるというように。 暫く沈黙が流れた。それを壊したのは大げさな溜息だった。吐いた彼女は拳銃をショルダーホルスターへと仕舞った。 「紅鉄茜(コウテツアカネ)よ。出会い頭に銃向けて悪かったわね」 脇腹に手を当てると、赤銅色の髪を揺らしそう言う。下は膝上丈の黒スカートであるがやはり上半身はYシャツに黒ネクタイと制服の形だ。スカートからは黒タイツの脚が覗く。 「雨ヶ崎梅雨(アマガサキツユ)」 淡々と名前だけを述べると雨ヶ崎は札を懐へ仕舞った。制服では無かった。白無垢のような純白の着物に身を包み、顔全体を覆う白の面で隠されているため、その下で何を考えているかは読み取れない。だが、声音と同じような無機質な表情が面に張り付いていた。 (烏丸もだけど、顔隠してる奴多いな……) 「警戒させてごめんな、こいつら血の気多いから。 俺は夏目龍之介(ナツメリュウノスケ)。仲良くしような!」 唯一武器を向けなかった青年、夏目は無邪気な笑みを浮かべた。陽のようだと思った。だが、彼を中心に何か重い空気が渦巻いているのは気のせいだろうか。 「彼らは君たちの二つ上の先輩。訓練や演習は彼らとする事が多いと思うからしっかり学んでおいで。茜、今日は君たちだけかい?」 「出勤してる人ぐらい把握したらどうなんだよ。そーだよ、私達だけだ」 「そうか、じゃあグループを作って簡単な任務をお願いしようかな」 「はあ!?今日は『新人迎えるだけの暇で簡単な仕事』ったの誰よ! 折角朝から、カードゲーム大会楽しんでたのに」 (カードゲーム大会……仕事中にありなのかよ……) 自由翻弄過ぎる職場に笑えてきてしまう。本当に霊や陰陽師といった非科学的なものと闘っているとは想像がつかない。 「えー!ズルいー!!僕もやりたかったー!ちなみに、一番勝ってるのは?」 「梅雨。お面ってズルくない?幾らお面に喜怒哀楽表れるにしろ、元がポーカーフェイス上手いから全然。一回勝ってたらいいぐらいよ」 「ほほーん、じゃあ今度は僕も混ぜて。……ん、ゴホン、ゴホン。 今年は新人が四人。任務の組み分けは前列に並ぶ時間通り組と後列の遅刻組に分けようか。 時間通り組には龍くん、補助で入って」 「ういっす」 夏目はにかりと歯を見せて笑うと、静希に「一緒だな」と耳打ちする。 静希は出会って早々に確信する。 (ほんとに、いい人だな……) 「遅刻組には茜と梅雨。新人の二人は一応経験者だから少し難易度の高い任務を出すよ。夏目達には、低級霊の彷徨く墓地へ。茜達には興味本位で入った者が出てこないという神隠しが起こるトンネルに。恐らく中級若しくは高級だ。みんな、お願いするよ」
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