大杉墓地

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大杉墓地

二十三区に接する武蔵野市 『大杉墓地』 三日月によると低級霊が彷徨っているため、それを祓うとの事だ。 『夏目の分かりやすい霊級分類』 “気味の悪い声が聞こえるや寒気がするといった生活に支障のない症状を出すのが低級霊。 人間に取り憑けるが術式を使えない霊は中級霊。 取り憑ける、術式が使える。それにより、取り憑いた相手を死に導く霊、身体を操る霊は高級霊。 取り憑かずとも人間を呪い殺す事ができ、怨念さえあれば攻撃し続ける事が出来る霊。分かりやすく言うと特級だが、こういった類のものは怨霊と呼ばれている” 三日月が先ほど使った移動術と同じようなもので夏目達は墓地の付近まで飛び、残りは徒歩だという事だ。 (こんな早く適応出来るなんて思わねえよな……) 「そういや、俺、時間通り組としか聞いてねえんだけど名前何っうの?」 墓地へ向かう終盤の坂、夏目は二人へ尋ねた。 「葛葉静希っす」 「……烏丸七草だ」 「ふーん。……そういや俺ら全員植物の名前入ってるよな! 夏目に葛に、七草はちょっと抽象的だけど春の七草って言うし」 「確かに……。あ、聞きたかったんですけど、夏目さんはどうしてここで働く事にしたんすか?」 (さっきの二人に比べてというか、今日会った中で一番一般人ぽいけど) 「あー……俺?特に深い理由はねえな。滑り止めで受けたら真逆のここでしか内定貰えなかったんだよな。半分やけくそで入ったけど、噂はただの噂で今はここで働けて良かったって思うぜ」 (俺と一緒の人いたー!良かったわー) 「なんか安心したって言っていいか分かんないすけど、安心しました。 ここにいる烏丸も烏と視界を共有出来るとか言うし、藤林も忍者の末裔だし、あの出雲は何も言ってねえけど絶対一般人じゃないし」 烏丸が言葉の後、布越しに此方を睨んできたのには無視しておこう。 「その気持ちめっちゃ分かるわー!俺ん時も拳銃隠し持ってる奴とか無愛想だったり、お面付けてる奴いたり。まーじで最初焦ったもん」 笑いを落とすと「……だよな……」と虫の音程の声量で呟いた。 「ん?」と静希は聞き返すが、返ってきたのは何でもないという笑顔だった。 「夏目、と言ったな」 「おう、何だ?」 「オマエを中心に漂う黒い影は何だ」 夏目の笑顔がピタリと顔に張り付く。まるで作り物のようだ。 その笑みを解すと、夏目は再び笑いを零す。 「先輩にはちゃんと敬語使わなきゃダメだろ。俺は気にしねえけど、紅鉄とかそこのあたりマジでこえぇから」 話の論点をすり替えると、彼は「あそこじゃねえか?」と坂の上に見えて来た石垣を指差した。若干遅れながらも「ぽいっすね」と相槌を打つ。 その時の静希達は夏目の隠したがった“それ”を問い質すような無神経さは持ち合わせていなかった。
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