大杉墓地

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見えてきた墓地は一般的な墓地と何ら変わりはないように見えた。 規則的なようで不規則に並ぶ墓石。鬱蒼と茂った草木。苔の生えた囲。 これまで見えた事のない静希に視えるはずもない。 「あの……何も視えないすけど……」 「視ようと思ってよぉーく眼を凝らしてみて。薄っすらと靄みたいなの視えるはずだから」 ぎゅっと眉間に力を入れ、眼を凝らす。そして再び周りを見回してみる。 (んー?何も見えねぇ……ん?) ふと一つの墓の周辺に今にも消えかかりそうな黒い靄が出現した。明確な意志があるようには見えないが、漂うそれは墓から離れようとはしない。 「あ!!」 「やっぱ見えたか。んじゃ、実体表す前にパパッと説明するか。七草、何も言わねえって事は見えてるって事でいいんだな」 烏丸は静希と同じ方向の一点に視線を注いでいるとふっと瞼を下ろし、頷いた。確認すると夏目は歯を見せ笑う。 「オッケー。まず彼処に屯しているのが俺たちの対象だ。低級の霊ってのは時間が経てば経つほど、身体に取り込めるエネルギーが増える。時間との闘いだ。今からお前に渡すのは呪符。元から術式が掛けられていて、これが対象の霊に近付くと術式が発動する。 あ、術式ってのは霊を祓う技みたいなもんだ。 まあ難しく考えないで、あいつら向かってホイって投げたら後は札がどうにかしてくれる。上手くやれよ」 夏目は早口に告げるとそれは直ぐに淀みを濃くし、異形へと変わる。 身体の形は黒の蜥蜴に近いが、首から上は崩壊していた。 片方の眼球は飛び出し、唇は歪んで開いたままの口からは舌がはみ出ている。赤黒い舌はジュルリと下品な音を立てて口の周りを舐める。 (キモッ!霊って三角の布頭に付けた足透けてる奴じゃないの!?) 「あの見た目でならば祓うのに手こずりはしないが、中級に上がるのは時間の問題だな」 「呑気に見物してないでそういうならやってくれません!?」 「断る。大方素人のオマエの為に始まった任務だろう。 オマエが祓わなければ意味がない。有り難い事に投げるだけの呪符を渡されている。さっさとやれ」 (うっざ!) 先程夏目から手渡された呪符と呼ばれた赤い札を握り締める。長方形で赤地には白で何か記されているが、随分と普段読む字とはかけ離れていて古い書物の字体に近い。 (これを投げたらいいんだよな……) 前の墓地に屯ろする異形と向き直る。不気味な笑いを張り付け、墓石を長い舌で舐める。ビチャビチャと水音を立てる。 ザザッと足をゆっくり引きずり、右足だけ半歩後ろに下げる。 静希は異形目掛けて札を投げる。標的を定めた肉食獣かのように、札は自立し驚くようなスピードで異形へ飛び掛る。 札から赤い文字が発され、あっという間に異形を雁字搦めにする。 ぎゅうぎゅうっと縛られる。 「ウ゛ゥゥ……!!!!!!!!!」 異声を発し、その文字を三又に分かれた掌で掴むと力任せに引き千切った。 それと同時に見守っていたような呪符本体も宙で散る。 「あちゃー。一足遅かったか。静希、その札じゃ無理だ。幾ら投げても千切られる。次の手移るぞ」
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