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「次の手、っすか……」
「ああ。呪符に掛けられてるのは素人でも使える簡易な術式。対低級霊用だからな。けど今回は場所が場所だけに霊の源である生者の懺悔や後悔が集まりやすい。さっき言った通り時間が経てば経つほど強くなる。
中級相当の実力を持った場合は……七草なら分かるよな」
意地悪気な顔をした夏目は見物していた烏丸へ話を振る。烏丸は動じる事もなく、腕を組んだまま答える。
「より強い術式が込められた道具を使う。若しくは生身の除霊師が術式を掛ける」
「正解。生憎だけど俺は今日、呪符以外の初心者向けの道具を今日持ってきてねえ。って事はこの仕事は先輩に引き渡されたって訳だ。ま、七草に任してもいいんだけど先輩の顔を立たせるってことで譲ってくれ」
夏目は苦笑いを浮かべた顔の前で手を合わせそう言うと、霊に向き直る。
先程の墓石から別の墓石へ移動しており、移動したであろう道筋には透明の粘液が付着している。
(きったね!唾液か?)
「行くぞ」
夏目はしゃがみ込み、己の影に触れる。指はゆっくり影の中へ沈む。
そこから出現したのは一本の刃。刃の部分は夏目のものと思われる影が巻き付いており、頻繁に姿を変える。夏目は柄の部分を握ると、異形目掛けて振り下ろした。
『黒影術 刀身法』
黒の刃は異形の身体を両断する。異形は抵抗する術を持たなかった。否、暇が無かった。醜い悲鳴と共に、身体は灰となり崩れ宙へ上がっていく。
夏目は柄から手を離し、刃は落下する。だが物がぶつかる乾いた音はしなかった。水中のように影はゆっくりと刃を飲み込んでいく。
まるで影に意識があるかのようだった。
「うっし、終わったー」
(凄い……)
夏目の動きには躊躇いがなかった。異形の中心を切断するという明確な狙いがあった。
「何だあの術式は?」
「ああ。この術式は己の影を媒体に攻撃する。分かりやすく言うと、影が術式の総本山。そっから派生してんのが俺がさっき使った刀身法とかだな。
俺も詳しい事は分かんねえんだよな。見よう見真似で手探りで。
ま、素人なんてそんなもんだ。難しく考えんな」
「は、はぁ……」
夏目は二つ上の先輩と聞いた。二年後には自分があのように簡単に祓えるようになっているとは想像がつかない。
「楽な仕事だったな!ま、任命した三日月センパイは大方ダラダラしてるんだろうけど……。
俺たちも終わったしさっさと帰るぞー」
墓地内には来た直後に感じた不快感は無かった。
静希は未熟ながらもそっと安堵し、夏目の背後に立ち墓地を後にした。
ーその頃の三日月ー
「くしゅん!あぁ……風邪かなぁ……」
ズズッと三日月は鼻を啜る。くしゃみの振動でか、スマートフォンでプレイ中のカーレースで三日月の車はコース外へ落ちた。
「ああ!!折角一位だったのに。もう早くしろよ」
意味は無いが、車を持ち上げるキャラクターの身体を急かすように何度もタップする。その間、他の車が三日月を抜いていく。
「チッ、一位なのも今のうちだからな」
三日月は前のめりになり、再びカーレースへ没頭した。
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