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彼女は放射性波動歪曲症という病気を患っている。量子エネルギーの濫用によって、人体のバイオリズムを乱す時空汚染が蔓延していた。それによって身体機能、免疫力の低下などの不調をきたしていた。
「それじゃ行こうか、どこに出掛ける?」
彼女はベッドをポンと叩くと立ち上がり、傍らに置いてあったギターケースを右手に持つと、元気良く答えてくれた。
「もちろん! いつものあの場所へ」
病院を出ると、眩しい日差しが目に差し込み、彼女は顔を手で覆った。
「うわ眩しい、なんか生きてるって感じがして、いいよね」
川とは反対側に向かう並木通りを駅方面へと向かう。ケヤキでせわしなく鳴く蝉の声も彼女には心地よさそうだった。
花柄のワンピース、以前のTシャツとショートパンツとは違い、どこかしおらしく見える彼女の横姿が、路面に深い影を落としていた。
「重そうだね、持とうか?」
「これは命の次に大切なものだからね、そう簡単に渡さないわ。それにこうやってギターケースの重みを感じていると、自分に戻った感じがするんだ」
まもなくすると古い商店街が見えてきた、小さい路地を右に入ると猫が段ボール箱の上に香箱座りをしていて、こちらをじっと見つめてきた。
「かわいい、猫ちゃん」
彼女が躊躇なく猫の頭をなでると、抵抗する様子もなく、静かに目を閉じていた。
路地の突き当たりに視線をやると、黒塗りの立て看板が目に入った。白いペンキでギターの絵柄と「六弦堂」という文字が記してある。
看板の横にあるチーク材のアンティークドアを開くと、カランコロンという鐘の音がした。
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