悠久の歌姫

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「いらっしゃいませ、……! 歌奈ちゃん?」 「マスター、久しぶり」 「随分と来なかったね、どうしていたの?」 「うん、ちょっと入院が長引いていてね。外出許可が下りたから、来ちゃった」 「そうか、まあゆっくりしていってよ。今日は詩音(しおん)くんも一緒か」 「はい、付き添いみたいな感じで」 「好きなところ、座って。そこのソファがいいんじゃない?」  ソファの横の壁には、複数のアコースティックギターが飾られている。後ろには棚があり、アンティークレコードや、古い楽譜本が陳列されていた。  ミュージシャンだったマスターが骨董品屋だった店内を改装して、喫茶店を営んでいる。古時計、ジュークボックス、招き猫など和洋折衷のレトロオブジェが所狭しと置かれている。耳に金のピアスと無精ひげという少しダンディなおじさんだ。  二人で並んでソファに座ると、マスターが水をふたつ置き、メニューを開いて渡してくれた。 「ご注文は?」  俺は手に持ったメニューを歌奈に見せると、俺のほうに身を寄せて覗き込んできた。 「そおねえ、またいつ来れるかわからないから、いつものブレンドセッションがいいな」 「それじゃあ、“六弦ブレンド”二つお願いします」 「かしこまりました、今日は……ブルマン中心だけど、他の五弦のご希望はあるかな?」 「私は高音高めに」 「俺は重低音が響くやつ」  マスターはメニューを畳むと、カウンターへ戻っていった。
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