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歌奈はコーヒーカップを両手で持ち上げると一口啜り、「ん、酸味が清々しい、この感じこの感じ」と言いながら、ふんふんとリズムを取っていた。
ちらりと俺のほうに視線を向けると、何かを企む妖しい笑顔で話しかけてきた。
「詩音くんさ、曲に乗せる詞を書いてくれる?」
「作詞? いや、そんなことやったことないから」
「大丈夫、大丈夫、うまくリズムつけてあげるから」
「絶対無理、黒歴史を残したくない」
「え? 具合悪くなってきた。なんか調子わるい」
機嫌の悪くなった彼女を見て、「はあ」と息をつきながら、
「しょうがないな、でもさ、あんまりいいの書けないよ。詞なんて書いたことないし」
「君に書いてほしいんだ、今この弦を贈ってくれた理由が……なんとなくわかってきた」
そう言うと歌奈は立ち上がり、カウンターに置いてあったチラシとボールペンを持ってきた。チラシを裏返してテーブルの上にぱさりと置くと、ボールペンを俺に差し出した。
「んー、なんかテーマとかないの? 何書けばいいか、思いつかない」
「そうねえ、私に対する……想いとか?」両手を組み、目をキラキラと輝かせる。
「歌奈に対する想いね、色々な意味で君には感謝している。うん、じゃあそんな感じで少しだけ」
ボールペンを受け取ると、チラシの白いキャンバスにペン先を乗せた。
「悪いけど、出来上がるまで見ないでくれる?」
「うん、コーヒー飲んで待ってるね」
彼女は向かい側のソファに座り直すと、コーヒーを啜り始めた。
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