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うまくいかない、俺は書いては横棒線を引き、もう一度書き直してみる。その様子を眺めていた歌奈が呟く。
「そんなに悩む必要ないよ、素直な気持ちを書いてくれればいいから」
素直な気持ち……君の未来を知っている、どんなに辛い日々を過ごしたのか、絶望する言葉を何回聞いたことか。そこからどう立ち直ってきたのか、そんな簡単なことじゃない。
時歴介入の時間が過ぎていく……君に捧げる言葉、たくさんありすぎてまとまりがつかない。そうだ未来でも書くか、君の未来はこんなに素晴らしいということを伝えてみようか。
「書いてみたよ、はい」
俺はボールペンをテーブルに置くと、チラシを歌奈に渡した。
彼女はそのチラシを受け取ると、コーヒーを片手に眺め始めた。
そのうちブッと噴くと慌ててコーヒーをテーブルに置き、ハンカチを取り出した。
「ごめんごめん、結構ベタな詞だなぁと思って。このEternal Divaって、どういう意味?」
「悠久の歌姫……だから言ったじゃん、黒歴史になるって」
「いいんじゃない、これが曲のタイトルということにしよう」
ハンカチで口を拭きながら、まだププと笑い続ける歌奈。
「弦の張り替えできたよ」マスターがギターを片手にカウンターの奥から出てきた。
「ありがとうございます」歌奈はギターを受け取ると膝の上に置き、ポロンポロンと弦を弾いてみた。
「うっわ、何この音色、音の波が自分に共鳴しているみたい」
「ウェイブメモリーストリングスは普通の弦と違う、君の生体バイオリズムと波長を合わせた音波を発生させる。だからそれは君自身の“音”ということだよ。弦高は最適な高さに調整してある」
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