38人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女はあの弦を渡して、何がしたかったのだろう? 確かにいい音は出ていたが、過去の自分に贈る必要があったのだろうか。
「これってさあ、未来からの贈り物だって言っていたよね」
「うん」
「ギター弾いていて少し感じたんだ、未来を」
……イメージが弦から伝わるということなのだろうか。
「今じゃないとできないことがあるって気づいた」
「それは何だろう?」
「……すごい照れるセリフだから。河原のほう、ちょっと散歩していっていい?」
「いいけど、俺あんまり時間がないんだ、少しだけ」腕時計に目をやる、あと三十分。
突き当たり交差点の信号が青になったところで、横断歩道を渡る。
土手の階段を上るとコンクリートの遊歩道が川に沿って、遠い果てまで続いていた。その先には幻影のように佇む複数の巨大パラボラアンテナ群。
「あれが空間を汚しているんだよね、私の体もそのせいで悪くなっている。……でもあれがないとみんな生きていけなくなってる」
「目に見えない公害だからね、環境破壊があるとわかっていても、誰も否定はできない」
「あんな得体の知れないもののために、自分の人生が台無しになるなんて、いや。それで決めたんだ、私がこの地球を守れないか? って。たぶん未来ではもっと酷いことになっていると思う。その時、私の歌で地球のリズムを取り戻してあげるの。自分で言っていて、ちょっと恥ずかしいけど」
「大丈夫、その役割を君は果たすことになるよ」
「またまたぁ、褒めてくれるのはありがたいけど、ちょっと怪しい感じだぞ?」
最初のコメントを投稿しよう!