悠久の歌姫

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「俺は……未来から来たんだ」 「えぇ? 詩音くんってそんなに妄想家だったっけ」 「近い将来に時歴介入士という職業ができるんだ。それで……君に箱を渡すよう頼まれた。まあ信じてくれなくてもいい、俺は仕事を片付けるだけだから」 「もし本当だとして、私がその舞台に立つということ?」 「その予定になっている」 「そんな事言っちゃっていいの? だってばらしちゃったら、未来が変わっちゃうかもしれないのに?」 「過去も未来も常に流動している、それが未来の社会常識になっている。それどころか、今のままでは希望の持てる未来がないから、過去からやり直したいという人も増えている。そのための職業なんだ」 「そう、じゃあ私も過去でやり直したいことがあったってことね。だとしたら、なんとなく意味がわかる」歌奈は歩道にあった小石を蹴って、俺の足に当ててきた。 「今しかできないこと……それは青春ね」頬を少し赤らめながら、ほほ笑む歌奈。  一瞬、間が空いたが、俺もうーんと悩みながら、問い正してみた。 「青春って、何やるの?」 「そうね、大したことじゃないと思う。うれしいとか、楽しいとか、哀しいとか。歌って色々な経験が必要なの、だからそれができなかったことを後悔しているんじゃないかな。病院でずっと暮らしていると、みんなが当たり前のようにやっていることがすごく羨ましい……私の青春に付き合ってくれる?」  歌奈は前髪を左手で搔き揚げると、細めた視線を向けてきた。唇が少し緩んでいる。
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