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多世界解釈――パラレルワールドが世間一般で理解され、無限の世界が同時に存在することが立証された。しかしそれは複数の世界が存在するのではなく、個々人、事象が重なり合って、ひとつの世界が構成されていることがわかった。並行宇宙ではなく、交錯宇宙。
一本一本の毛糸がそれぞれの宇宙だとすると、それらがもつれ合って毛玉になった状態ということになる。
俺の能力は“自分の見ている世界”の過去に意識を移行させることができることだ。
宇宙の理は個々人の解釈・認識によって異なる。俺の場合、時間という概念を曖昧にすることで意識を自由に移動することができる。
実際、未開の地では時間という概念を持たない民族もいる。
過去の自分に意識を移し、顧客の元を訪れ助言やメッセージを伝えること、それが俺の商売。
俺はコーヒーカップをふたつ手に持ち、ソファの前のテーブルに置いた。
彼女の向かいのソファに座ると、名刺を差し出してくれた。名刺を手に取り、まじまじと眺める。
「KANA」と大きく書いてある……普通の人であればその場で卒倒しても、おかしくない。
「あなたはすでに有名なウェイブミュージシャンでしょう、今更何を変えたいというのですか?」
「自分に渡しておきたいものがあるの。あなたならできるでしょ?」
「よくご存じで。確かに私は一級時歴介入士です。手に持てるサイズのものなら、持ち運びもできますが……何を渡したいのですか?」
「これを」彼女はバッグのボタンを外すと、中から白い箱を取り出し俺に見せた。
「箱ですか、中には手紙か何か入っているのですか?」
「ある物が入っています……私ならたぶんわかると思う」
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