悠久の歌姫

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 その箱を手に取り、色々な角度から眺めてみた。振ってみると、カタカタという音がした。 「これをいつの時代に?」 「高校二年生の夏」  彼女は高校時代の同級生だ。その頃の彼女のことはよく知っている、当時から音楽の素養があった。類まれな歌唱力がウェイブ(波動)ネットワークで、プロデューサーの耳に届きデビューを果たした。  根暗だった俺の趣味は小説を書くこと。教室でノートに落書きした小説が彼女の目に留まり、小説の一節に曲を付けてくれるようになった。当時の唯一の友人。 「いつもなら事情を聴いて、大した事でなければ追い返すところですが……旧来の友人の頼みとあってはしかたないですね。ただし料金は先払いですが、よろしいでしょうか? 過去改変を行うとそもそも問題解決してしまうので、私が現在に戻った時、依頼したことすら忘れている方が多いですからね」 「うん、わかった。請求メールを送っておいて。すぐに振り込む」 「それでは午後の相談までまだ時間あるので、その前に済ませておきますよ」  名刺に記載してあるメールアドレスを確認しながら、ノートパソコンに請求額と振込先を打ち込み、送信ボタンを押した。
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