悠久の歌姫

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「ありがとう……今も小説は書いているの?」 「小説ですか? いや、書いてないですね、今となっては黒歴史ですよ」 「なんで小説を書くことをやめたの?」 「それは過去介入することで、自分の小説が黒歴史になることを知る。だからその時点でやめることにしたんだ」 「未来を知ってしまうって、そんな人生面白いのかしら?」 「価値観によるんじゃないのかな? 私……いや、俺はあまり気にしていない。過去も未来も常に流動的だと思っている。その絶対的世界観があるから、この能力が使える」 「じゃあ、私が未来にどうなるかもわかる?」 「ある程度は……テレビで観たくらいだけど。でも確定されているわけじゃない、現時点での未来なら。ここで過去介入することで変わることもあるかもしれないが、実際はほとんど変わらない。水の流れに逆らったところで、大きな潮流を止めることはできないからね」 「なんか悟っているわね」 「仙人みたいな生活だよ、ただ傍観する。さてと、もういいかな? 休憩時間がなくなりそうなので」 「わかった、時間があれば今度一緒に食事でも?」 「いいよ、俺のことを覚えていればね」 「手帳にメモしておけばいいんじゃない?」 「無駄だよ、過去を変えた時点で、ここにきてメモをした事実を忘れる」  彼女が席を立つと、俺は入口に向かいドアを開いた。 「それじゃ、よろしくね」 「ああ、元気で良かった」  彼女が手を振りながら階段を下りていくところを見送った。 「さてと、午後の面会前に片付けておくか」  右耳につけた小さな銀のピアスを(はじ)く。ピィーンという音が部屋中に響き渡る。  このピアスが生成したマイクロウェーブが俺の脳を直接刺激し、時間観測を曖昧なものにしていく。  そして思い出す、あの夏の日。リメンバーキー(再帰鍵)は彼女のいる場所へ向かう途中で見かけた“空き缶”。  …………
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