38人が本棚に入れています
本棚に追加
空を見上げる、台風の後の澄んだ空気のせいだろうか、群青色の青空が広がっていた。
俺は学生服を着たままの学校帰りだ、川のすぐ横にある遊歩道を歩いている。通り過ぎるジョギング中のお兄さんがお辞儀をしてきたので、俺も軽く会釈した。
道端に目を向けると、そこにひしゃげた空き缶が落ちていた。左手に巻いた腕時計に目をやり時刻を確認する。右手には彼女から渡された白い箱を持っている。
しばらく歩くと、右側に大きな建物が見えてきた――歌奈の入院している病院だ。
今日は久しぶりの外出許可が下りたらしく、「遊びに出るのに付き合ってほしい」と頼まれていた。ちょうどその迎えに行くところだった。
病院にたどり着くと面会手続きを済まし、エレベーターに乗って歌奈にいる病室に向かう。
病室の前に立つと、少し咳払いをしてからコンコンと扉を叩いた。
「どうぞ」という声が聞こえたので、扉をスライドさせて覗きこむ。大きな六人部屋にベッドが並んでいた。
歌奈はすでに着替えを済ませ、一番奥のベッドの上に座り込んでいた。
「はーい、久しぶり」
明るい笑顔で手を振る歌奈。彼女の前まで歩いていくと、周りの女性達からニヤリとした視線が集中する。
「そういうんじゃないんだよな」と心の中で呟く。自分と住む世界が違う、彼女は将来世界を動かすほどの有名な歌姫になることを誰も知らない。
「調子はどう?」
「うん、たまに具合が悪くなるけど、今はウェイブアジャスター付けているから大丈夫だよ」 首に取り付けられた銀色の首輪を指さした。
最初のコメントを投稿しよう!