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学校の教室、下校時間を過ぎても俺は一人ノートにひたすらあるものを書いていた。
「青春小説」でも子供の頃から空想小説しか読んだことのない俺にとって、それはとても苦痛な作業だった。
そもそも青春とは何だろう? 本当は今経験するべきことなんだろうけど、友達もいない俺にとって、それと呼べる出来事が皆無だった。
カフェで見かけた赤い制服の少女、図書室に残された置手紙、体育館の倉庫で拾った生徒手帳、何を書けばそれらしくなるのか?
しかし俺は書かなくてはならない、彼女に伝えたいことをまとめて文章にしておきたかった。そのままだとつまらないので、物語にして読んでもらおうと考えた。そうは言っても文章を書くのが得意なわけでもないし、奇抜なストーリーも思いつかない。
仕方がないので、昔観たことのある空想映画を少し真似て書いてみることにした。
あらすじは大体まとまってきたけれど、盛り上がりに欠けるし、細かな描写が思いつかない。
俺はシャーペンを口に咥え、椅子にもたれながら、頭を抱えていた。
太陽はもう傾き始めていて、窓から差し込む強い西日がノートの文字を霞ませていた。
「何やってるの?」声を掛けらた方を振り向くと、ギターケースを手にしたクラスメイトの歌奈が立っていた。
「いやちょっと宿題でわかんないところがあって……」
「見せて見せて、私ならわかるかもしれない」そう言うと、歌奈は机からノートを取り上げ、読み始めた。
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