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散花のメアリー
多分。
世間には知られていないだけで、ちょっと不思議なくらいの能力を持つ人間なんぞいくらでもいるのだと思う。超能力と呼ばれるほど大した能力じゃなく、例えばほんの少しだけ人の感情が読み取れるとか、綿毛を飛ばすくらいの念力が使えるくらいの能力だとか。はっきり言って、人に自慢するほどでもないし、本人的にもなんの役に立つのかわからないような能力。私もまさに、そんなものを持つ人間の一人だった。
極めて限定的な状況でしか使えないような、その力とは。
「あ」
雨でぬかるんだ地面。工事現場からコンビニの方へ出ていく、泥で汚れた靴の足跡が微かに残っている。その上にうっすらと浮かび上がる、一つの名前。
――城田君、今ここで働いてるんだ……。
城田逢人は、高校一年生の時の私のクラスメートだった少年だ。すらっと背が高いイケメンで、バスケ部では次期エースとして期待されていた。多分、私以外にも彼のことが気になっていた女子は少なくなかったことだろう。彼は誰に対しても笑顔で大らかで親切で――まあ一言で言うならば、モテない要素がどこにもないような人間であったのである。
そんな彼と、入学早々隣の席になるという幸運を得た私は。名前順の席から席替えになるまでの暫くの間、同じ班でいろいろと話をさせてもらったものだった。あまり女らしくなく、周囲から“アネゴ肌っぽい”と言われる私は、彼にとっても気安く話しやすい女子であったことだろう。
しかし彼とのささやかな学校生活は、長くは続かなかったのである。
逢人の父親が病気で急死し、元々あまり裕福な家庭でなかった彼は学校をやめざるをえなくなってしまったのだ。公立校の授業料が危なくなる時点で、よほど追い込まれていたのだろう。半年程度の学校生活で、あえなく女子達のアイドルだった少年はあっさりクラスを去ることになってしまったのだった。
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