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01 ハジまり、、
「あのぉ、ショートケーキを1つだけって、売って頂けますでしょうか?」
早野碧美(はやの・あおみ)は閉店間際のケーキ屋さんに飛び込むと、店員さんの顔を見ずに、俯いたまま小さな声で訊ねました。
「お客さま、勿論大丈夫ですよ」
明るい声に、碧美がおずおずと顔を上げると、お馴染みの全国チェーンの洋菓子屋さんの制服に身を包んだ若い女性の店員さんが目を細くして微笑んで居りました。
碧美は大きく胸を撫で下ろすと、頬を緩めて、「ありがとう」と云い、ようやく顔を上げてショーケースに目を向けることが出来ました。色とりどりの都会的なデザインのケーキが幾つも可愛らしく並んで居り、目に強烈な刺激を放ちました。碧美は目が回りそうになって、一つ一つのケーキを直視できないまま、
「それじゃあ、その苺のショートケーキを1つ下さい」
と、ようやくなんとか無難な注文が出来たのでした。
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