平穏の代償

1/6
前へ
/6ページ
次へ

平穏の代償

 ここのところ、ずっと天気は曇りのままだ。どんよりと重い雲が立ち込める空を、クライヴは頬を膨らませて見上げた。 「お母さん、最近の天気なにー?全然晴れにならないんだけど。もうすぐ遠足の日なのに」 「しょうがないでしょクライヴ。天気ばかりは人間の力じゃどうにもならないんだから」 「ぶー」  どんよりとした雲は、まるで町全体をすっぽりと覆い隠してしまいそうなほど丸く立ち込めている。雲の端の方からはわずかに青空が覗いているというのに、よりにもよってこの町の上にだけかかるなんて嫌な雲ではないか。  いや、曇りというだけならまだいい。  クライヴにとって死活問題なのは、一週間後の遠足の日がどうなるか、ということである。天気予報では、ここ一カ月ほどはすっきりしない天気が続くでしょう、ということしか教えてくれない。秋口のこの季節に、こんなに晴れない日が続くのは非常に珍しいことだ、みたいなことをお天気キャスター達は話していた。天気の詳しい知識なんぞ知るはずもない小学生のクライヴには、“そういうもんなのかな”という認識しかないが。確かに去年の今頃は、もっとすっきりとした秋空が広がっていたような気がしている。  スカイフォースというこの町は、山に囲まれた盆地に存在している。この世界を治める神様の名前からきた町名なのだとか。なんだかかっこいい名前だ、とクライヴは子供心に思う。残念ながら空を冠する町名に反して、ここ最近は青空を拝むことができなくなってしまっているが。 ――この町はかつて神様が降り立って世界を治めたっていう、神聖な場所なんだっけ。どんな神様なんだろ。スカイフォースなんていうんだから、大きな鳥とか天使様みたいなものなのかな。  少年の姿に、白い翼。金色のわっかがついた天使様の像が、この町にはいたるところに存在している。ただ、神様の像が祭られている場所そのものは多くない。なんでも神様は偶像崇拝をあまり好まないそうで、その意思を尊重して聖堂にも学校にも偶像を配置しないことにしているのだそうだ。  自分の像を作ってお祈りされるのが嫌なんて、なぜそんなことを思うのだろうとクライヴは思う。自分だったら、自分の像ができてみんなが憧れの眼差しを向けてくれたら十分誇らしいだろうと感じるのに。あるいは、本人じゃない像にお祈りされるのが嫌だとか、そういうことなのだろうか。あれだ、いくら自分の姿にそっくりでも、自分自身じゃないからなんかムカつく、といったような。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加