平穏の代償

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――そんなこと言うなら、千年に一度とか言わず、もっと頻繁に町に降りてきて姿を見せてくれりゃーいいのにさー。 「ところでクライヴ」  う、と思わずパンが喉に詰まったような声を出してしまった。台所から母の呼びかけ。こんな風に名前を呼ばれる時は、大抵ろくな用事ではないのだ。例えば手伝いをしなさいとか、ゲームばっかりするのはやめなさいとか、もしくは――。 「遠足も大事だけどね。それよりも先に、やるべきことがあるんじゃなくて?」 「や、やるべきこと?」 「誤魔化しても無駄よ。ヴィクター君のお母さんからちゃぁんと聞いてるんですからね。……レポートの宿題、明後日までなんじゃないのかしら?」 「う、うううう……」  ヴィクター本人はいい奴だが、そのママのことはどうしても好きになれない。何でそんなお喋りなんだろう。学校であったことを何でもかんでもヴィクターから聞き出して全部うちのお母さんに話してしまうのだ。しかも、話し始めたら無駄に長い。散歩で連れている犬のクッキーがその場に伏せて船を漕ぎ始めるくらいには長い。電話も頻繁にかけてきてうちのお母さんを独占するし、何で毎日毎日飽きもせずあんな長話ができるのだろう。  それにすぐ乗っかるうちのお母さんもお母さんだ、と言いたい。しかもちょっとよく聞いていると、似たような話がぐるぐる回っているから尚更だ。さっさと着地しろよ、と何度うんざりしたことか。彼女たちが電話を独占すると、自分と父さんはいつまでたっても電話をかけられない羽目になるからさらに面倒くさいのである。 ――レポートなんてやりたくないー!何で三枚も書いて出さないといけないんだよ、もう!  この町の文化、風土、気候について。何でもいいからこの土日で調べてレポートにまとめて出して来いとのこと。そんなのやってたら全然遊ぶ暇などなくなってしまうというのに。  こうなったら、とクライヴは考える。 ――博物館に行って!文章丸写し作戦だ!!  なお。  全く同じことを考えるだろう生徒が、クラスに何人もいることには事実に到着してから気づいて、頭を抱える羽目になるのはここだけの話である。
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