平穏の代償

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「たまにしか町に降りてこない神様なのに、足がでけー意味ってあるのかねえ」  ヴィクターはすっかりやる気をなくして、すぐ傍のベンチでぐったり座り込んでいる。 「絵描いてみればいいんじゃね?案外なんとかなるかもよ。なお俺はすでに戦闘放棄する気満々でございます。俺、誰かさんと違って絵心もねーもん」 「おおう、ある意味潔いなヴィクター君よ」 「俺はもうレポートは諦めて、一週間後の遠足と、神様の降臨祭……だっけ?そっちのことだけ考えることにしようと思います。やっぱ楽しいこと考えるのが一番だよー。勉強とか頭良い奴とそういうの好きな奴だけやりゃいいんだよー。どうせ俺ら一生スカイフォースから出ることもないんだし、外国の言葉とか勉強する意味もないと思います―」 「そう思うけど必修科目なんだよなこれが……」 「いやーん」  博物館では静かに、というのはわかっているが。幸い周囲に人は少なく(別のフロアでクラスメイトを数名見かけたため、いないわけではないだろうが)自分たちを見咎める人間はいなかった。  ベンチで足をバタバタさせている友人はほっといて、クライヴは博物館の説明文をざっくりと書き写し始める。説明文の横に飾られた千年前の人の文献とやらは劣化が激しい上、古代語であるとのことでほとんどそのままでは読むことができなかった。解説文には多少の意訳が乗っていたが、その方面のプロの知識をもってしても到底全文を解読するには至っていないという。 ――千年前に神様はこの町にやってきて、世界に安寧を齎すための教えを人々に広め、汚れた海や山を浄化してくれた……のか。千年前の人の壁画の方はわりとしっかり残ってたから像を作れたけど、文献の方は劣化が激しくてあんまり解読できなかった……と。  神様が現れる時、この町の人々はいくつか気を付けなければいけないことがあったらしいのだが、残念ながらその項目の殆どは読み解くことができなかったらしい。それで仕方なく、人々は神様の機嫌を害することがないように、神聖なスカイフォースの町の美化に励み、神様が現れたとされる日には降臨祭を開いてお祝いする風習が定着したのだそうだ。
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