平穏の代償

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 千年に一度、神様が現れるとされる降臨祭の日はもうすぐである。多少前後する可能性もあるので、人々はその日に備えてお祈りを欠かさずにするように、そして失礼がないように町や身の回りの美化に努めるようにと神父様には言われていた。年月が流れ、敬虔な信者がこの町でも減っている今。クライヴのようにお祈りの簡単な作法しか知らない子供も多く増えているわけであったが。 ――噂によると、神様は町の中央広場に現れるんじゃないかってはなしだよな。……あれ?あそこ噴水あるんだけど大丈夫?神様が踏んで壊れたりしない?  まあそういうのは大人が考えてくれるだろうから、どうでもいいか。クライヴはあっさり思考を放棄した。ざっくり説明文を書き写すと、像からやや離れて“神様”のスケッチを始める。  レポートを出せと言われているのに、ほとんどをでっかい絵で埋めていいのか?という疑問は正直あるにはあるのだが。どうせ、文章を書いたところで博物館の説明文の丸写しになるだけなのだ。なら、多少なりにも創意工夫の形跡が見えるだけ、絵を描いた方がマシな評価が貰えるだろうと踏んだのである。  人間の体以上に、鳥の頭を描くのが難しい。もっと言えば神様の像が大きすぎて、離れてもかなり首を傾けなければいけないのが辛かった。何度も首を回して休憩を取りながら、クライヴはスケッチを進めていく。 「早く晴れないもんかなー……」  ふあああ、とベンチでヴィクターが大きく欠伸をした。 「いつ雨が降るかわからないんじゃ、オチオチ外に遊びにもいけねーし。遠足にも傘持ってかないとダメかなー……」 「折り畳み持ってった方がいいんじゃね?その分おやつ減らして」 「嫌だー!」 「はははっ」  無邪気に笑いあう自分たちは、全く気付いていなかった。  町立博物館にもかかわらず、妙に施設が閑散としている理由も。職員が最低限しか配備されておらず、しかも皆どこか青ざめたような顔をしているその意味も。  全てを理解したのは、何もかもが手遅れになってからのことであったのである。
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