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兄弟の逃亡劇
薄暗い部屋に息を潜める影が二つ。 ドアの裏に隠れ聞き耳を立てると、足音が段々と近付いてくるのが分かった。
「絶対に捕まえてやるからな」
呟く声に兄弟は身体を小さく震わせる。 まだ小さな二人からすればまるで巨人とも思える男だ。
「兄ちゃん、怖いよぉ・・・」
「大丈夫だ。 兄ちゃんが付いているから」
このまま隠れているといずれ見つかってしまうだろう。 そう考えた二人は移動を再開した。 慎重に歩く二人の足音は激しい雨音がかき消してくれる。 だが同時に男の足音も聞き取りにくくなるのだ。
後ろを確認し見つからないように物陰から物陰へと移動していく。
「兄ちゃん、足が冷たい・・・」
「裸足で外へ出たのがいけなかったな。 無事逃げ切ったら温かいものをやるから」
靴下はびしょ濡れになっていたため既に脱いでしまった。 素足に冬の寒さは痛い程に刺さる。
「おーい。 ここら辺にいることは既にバレているんだぞ! 早く出てこい!」
「「ッ・・・」」
大きな男の声に兄弟は息を潜める。
「ど、どうして僕たちの居場所が分かるの?」
「分からない。 ほら、慎重に進むぞ」
弟の手を掴み一歩足を踏み出した瞬間だった。 寒さからか床がきしんでしまい大きな音を立ててしまったのだ。 二人はハッと息を飲んだが時既に遅し。
男の歩幅は二人とは比べものにならない程広く、瞬時に距離を詰められてしまう。
「見つけたぞ!」
「逃げろ!」
逃げられるはずがなかった。 もとより見つかってしまえば終わりだったのだ。 小さな弟を先に逃がし、兄は男の前に立ちはだかった。 だがそれでもどうにもならない程の戦力差がある。
大きな男は軽々と兄を抱き抱えると、狼狽えていた弟のもとへと駆け付けた。 同時に落ちる雷とも思える激しい痛み。 二人の頭上にはまるで大岩とも思える拳骨が落ちていた。
「お前たち、つまみ食いは駄目だと言っただろ!」
「「ごめんなさい・・・」」
「ったく!」
「でも、どうしてお父さんは僕たちの居場所が簡単に分かったの?」
父が指差す先を見ると濡れた足跡でいっぱいだった。 これではどれだけ足音を殺しても意味なかったのだ。
-END-
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