長い階段

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 ここ1年ぐらい、夫は日曜日に出かける回数が増えたように思う。  会社の人たちとは言っても、それが具体的に誰なのかということだけではなく、行き先もはっきりしないのが気になるところではあったけれど、美和子はそれを追究しようとはしなかったし、そうかと言って、夫のスマホをこっそりチェックしたこともなかった。  世の中には知らないほうが幸せなこともある。美和子は改めて心の中で自分にそう言い聞かせると、 「お待たせ。できたわよ」  ふたたびスマホをいじり始めていた夫に声をかけ、ランチョンマットをテーブルに敷いた。  スマホから目を離さずに、食卓に近づいて来る夫を横目に、美和子は冷やし月見うどんと薬味の皿、そしてチューブのショウガを丁寧に並べ、四つ葉のクローバーの箸置きに割箸を乗せた。
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