一章 水の都ウィスカネロ

3/15
前へ
/423ページ
次へ
2.  「おはようございます。ルミール王子。ヴェルマーさん」  「おはよう。エリーシャ」  「おはよう」  全ての女性をたらし込めるような甘やかな笑顔の王子。今日も白い歯が輝いております。黄金色の輝く艶のある髪に、晴天を思わす蒼い目。優し気な目元に浮かべた笑みは極上です。  ですが、わたくしはそんな笑顔になど引っかかりません。  王子の横を歩く凛々しいお姿。重たい剣を下げていらっしゃるのに、その姿勢、衣服に乱れはなく今日も今日とて完璧なお姿。少し垂れ目のパッチリとした目を細めて、わたくしに微笑み掛けたヴェルマーさんに知らずと顔はにやけます。  はぁ、カッコいい。超カッコいい……。マジでカッコいい。  「エリーシャ?」  にやけた頬を両の手で押さえながら呆然とヴェルマーさんに見惚れていたわたくしを不審に思ったのか、王子はわたくしに手を伸ばしました。  わたくしは王子のその手を優しく払いのけました。  「ふふ。気安く触らないでくださいまし」  「笑顔できつい事を言うんだね」  「王子には他に沢山の女性がおいででしょう? わたくしの事は放っておいてください」  「ふふふ。そんなに拒絶してくるのはエリーシャくらいだよ」  「御冗談を」  ははは。と王子は豪快に笑い出されました。わたくしも口元を押さえて笑います。  眉目秀麗なこのルミール王子は自他ともに認める女好きでございます。手に掛けたご婦人は数知れず。生物学上女であれば脊髄反射的に褒め称え、手籠めにしようとします。  まぁ、相手は王子ですし、見目も麗しくていらっしゃる。それに女好きと言えば聞こえは悪いですが、その性格は本当に優しくて聡明でいらっしゃいます。面と向かった者に対しては真摯でございます。ご本人に遊んでおられる感覚は無いのです。その一時は真剣に相手を思っていらっしゃるのです。  そんな王子ですから、世の女性からの人気も高くていらっしゃる。たまに本気にした女性に刺されそうになっているのを見ますが、ご自分でどうにかしていらっしゃいますし問題ないのでしょう。  「私達はこれから会議があるので失礼しますよ」  ヴェルマーさんは私に微笑みそう言われました。  「ごめんなさい。お忙しいのに引き留めてしまって」  「いえ、お気になさらずに。ルミール王子行きますよ」  ルミール王子はまたあの甘い笑みをわたくしに向けました。  「エリーシャもいい加減僕の星に加わればいいのに」  そう言いまた手を取ろうとしたのでさっと避けます。  「わたくしなどなんのお役にも立てませんわ。知恵も力もありませんし。五星の皆様がいらっしゃれば十分ではありませんか?」  「僕は君にも加わって欲しいんだけどね。何と言っても君には特別な力がある。それを僕の為に使って欲しい」  「何度も言っておりますけど、わたくしには大した力はございません。思うようには視えませんので力にはなれないかと」  「エリーシャも強情だね。力なんて口実に決まているじゃないか。僕は君がここから離れていってしまうその時が来て欲しくないだけさ。君が僕の星に加われば簡単には出ていけないだろう? 折角こうして一緒に居られるんだから」  王子はついにわたくしの髪を一房手に取りました。  しまった。油断した……!  そしてわたくしの黒い髪にキスを落とされます。ヴェルマーさんはそれを見て呆れている様な顔をしています。  待って待って! 違うの私じゃない! この王子が勝手にしたんです! 浮気じゃない!! 呆れないで~!!  わたくしは心の中で叫び、過ぎ去っていく彼の背中を切なく見つめました。
/423ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加