一章 水の都ウィスカネロ

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3.  水の都ウィスカネロ。この都市は本当に綺麗な所です。  元は一つだった陸地は、遥か昔の自然災害でヒビが入り、今では至る所に河が流れています。こんな状態でも沈まなかったのが不思議です。  フィスラ王国第三王子ルミール殿下。今このウィスカネロを治めているのはこの方です。  なんでも来るべき次期国王を選定する為の試験の一つだそうです。王族ならば、都市の一つも治めてみろ! 的な感覚らしいですわ。わたくしには関係の無い事なんですが。  ルミール王子は幼くして家族、民族を失ったわたくしを助けここに置いてくださっています。  流離の民であり一所に留まる事の無かったわたくしにとって、このウィスカネロは故郷と呼んで差支えの無い場所です。  ですが、いつまでもルミール王子やヴェルマーさんを始めとしたお城の方々の好意に甘えていていいものか分からないのです。  わたくしには何の取り柄もありません。ヴェルマーさんの様に剣を持ち、ルミール王子をお守りできるわけでも、知識豊富で王子に助言できるわけでもありません。  そして何よりもう子どもでは居られなくなりました。何もせず毎日呑気に暮らしていていいのか、と思うのです。  ウィスカネロを離れないにしても、このままお城に滞在するのは良くないですわよね。自立して家でも借りようかしら?  でもそうするとヴェルマーさんにそうそう会えない。それは嫌なんですわ。  わたくしがお城を離れられない最も大きな理由、それはヴェルマーさん! 彼がルミール王子に仕えているから。お城に居るから。わたくしはそんなヴェルマーさんのお傍に居たいから。ただそれだけの理由です。  わたくしはヴェルマーさんが大大大大大好きなんです!! 離れたくない! 思いが報われて欲しいとかそんなんじゃない。もちろん報われればそれに越したことはない! ただ毎日お顔を見るだけで幸せ。おはよう、とそれしか声を聞けなくてもいいの。あの人が見える場所に居るって、生きているってそう思えるだけで幸せなの!!  あら、いけない。興奮して素が出てしまったわ。まぁいいか。声には出していないんだし。  はぁ、自分の事、わたくし、とか呼ぶの全然慣れない。気持ち悪い。誰だよって思ってるんですけど。お嬢様喋りも気持ち悪い。お前そんないい育ちかよ、ってツッコんじゃうもん。  背伸びばっかり。それでも追いつかない。私の様な民草がお家柄がしっかりしていて、育ちも上品なあの人に似合うなんて思ってない。思ってないけど、少しでも届きたかった。こんな事で釣り合えるわけないのに、私は馬鹿だな。  恋なんて知らなければよかったのかしら? それは無理な話ね。だって何十回何百回と見てたんだもの。あの人のとても優しい目を。好きにならないはずないわ。ようやく目を合わせられた時、私は確信した。ああ、この人を好きになる為に産まれて来たんだって。  だから私はあの人が悲しむ未来は欲しくない。私に出来る事は何も無いのかもしれない。だけど、それでも、未来を少しでも変えられるのなら……。
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