一章 水の都ウィスカネロ

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4.  今日はいつにもましていいお天気だわ。  こんな日はお城の裏の丘に行くに限るわ!  「やっぱり居ました! ブラッドさん」  わたくしは丘の木陰で寝転がる黒髪の体躯の良い男性に駆け寄りました。  ブラッドさんは視線だけちらりとこちらに投げました。  「エリーシャ」  「はい。エリーシャです。お昼寝ですか? お昼寝ですよね?! わたくしも一緒に!!」  わたくしは寝転がるブラッドさんの横に寝転がりました。一人で木陰を占領していたブラッドさんは無言で寝返りを打ち、わたくしが木陰に入れる隙間を作ってくれました。  こういう所が優しいんですよね。無言だけど、嫌にならない無言です。何も話さなくても通じ合えるというか、ブラッドさんと居ると気を使わなくていいし兄の様に慕っているんですよ。  「こんなところで寝ていたら、また怒られるぞ」  「平気です! ブラッドさんも、一緒だし」  「ん」  ん、と言い腕を差し出してくるブラッドさん。腕枕してくれるみたいです。ブラッドさんの腕は筋肉でガチガチで太くて硬いです。何より私の頭の高さに丁度合っていて安眠効果があるんです!  「この間怒られたのは一人だったからですよ。女の子一人で外で寝るなんて危ない、ってルミール王子が」  「男と二人でもどうかと思うが」  「え、ブラッドさん私、じゃないや、わたくしに気があって?」  「その話し方まだ続けるのか?」  「辞め時が分かりませんわ!」  表情の乏しいブラッドさんはわたくしをじーっと見つめます。わたくしは目を何度もぱちくりとしばたたかせてしまいました。  流石にそう見つめられると恥ずかしいのですが。  「俺は素の方が良いと思う」  「やだ、恥ずかしいですわ……」  「自然体の方が良い。元気があって」  「でも、育ちの悪さが目立ってしまいます」  ブラッドさんは私の頭を抱え込むと大きな手で優しく撫でてくれました。本当にお兄ちゃんみたい。お兄ちゃんなんていませんでしたけど、居たらこんな感じなのかなと思います。  「俺は素のエリーシャが好きだ」  「え!? やはりわたくしに気が!? 今も手籠めにされようとしているんですか!?」  驚き顔を上げたわたくしの顔をまたじーっとブラッドさんは見つめます。ああ、知ってはいたんですけど、やっぱりじっくり見ると整ったお顔。普通にカッコいい。ドキドキはしませんし、ヴェルマーさんほどじゃないけど。  「バカな妹みたいで可愛いと思ってる」  「お、お兄様! 馬鹿は余計かと!」  「俺も育ちは良くないが、誰も気にしていない」  「だってブラッドさんは五星の一員じゃないですか。王子直々に選ばれた人材ですよ。私とは訳が違います」  「お前も王子が連れて来た。気にしなくていいんじゃないか?」  「正直ルミール王子の事はどうでもいいんです。どうでも」  はい。本当どうでもいいんです。良い人ですけど、どう思われようと別に気にしないんです。  「ヴェルマーさんも気にしない」  「そうだといいんですけど」  「人をうわべだけで判断するような奴を俺は尊敬しない。お前の話し方は興奮したり、感情が出ると元に戻る。一貫性が無くて混乱する」  「言い返す言葉もありません」  「かと言ってその変な喋り方だけだと、感情が籠ってなくて本当にそう思っているのか、馬鹿にしてるのか、と思う」  「そんなつもりはありませんよ!」  「だから、話しやすい喋り方でいいと思う。今みたいに」  またポンポンと頭を撫でられました。  この話は何度もブラッドさんにされていますの。それほどまでにブラッドさんはこの話し方が嫌いなようです。わたくしも嫌いですが、辞め時が本当に分かりませんの!  だって考えてもみてくださいまし。いきなり気さくに話し出したわたくしを皆さまどうお思いになられるでしょう?  え? 何? 気が触れたの?  どうしたの? 失恋? (笑)  お前そんなキャラだったっけ?  みたいな目で見られると辛いじゃないですか! ですがポンコツのわたくし。この話し方をブラッドさんの言う通り続けることも出来ません。くっ、自分の低能さに涙が出ますわ!  ここはそれとなーくちょっとずつお嬢様言葉を丁寧語に変換していきましょうか。よし。その作戦で行きましょう。  「ブラッドさ……て、寝てるし」  早くないですか? つい数秒前まで起きていらしたわよね? 流石ですわ。  クゥクゥと可愛らしい寝息を立てるブラッドさんに釣られていわたくしも目を閉じました。
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