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夢中になると他のことが目に入らなくなる奴のことだ。今でも「東京に行く前に最後に遊ぼうぜ」という約束のこと以外、覚えていないんだと思う。
だから俺は、毎年、最後の日がくり返せるように、細工してしまう。
それは誰にも――息吹のお母さんにも言っていないことだった。
自分が死んだことに気がつけていないのなら、教えてやるのが本当はあいつのためなんだろうか?
あの世のシステムが俺にはよくわからないけど、俺との最後の約束なんて忘れてしまったほうが、いわゆる「成仏」できたりするんだろうか。
あれから俺は無事大学にも合格した。
新しいことを勉強した。
バイトしたり、サークルに入ったり、彼女も作った。来年にはいよいよ就職だ。
息吹の知らない俺がどんどん増えているのに、俺はまだあの日にとらわれている。
なにか特別なことをするわけでもないのに心地いい。そんなあの頃の時間を、手放せずにいる。
迷惑をかけているのは、ばかなのは、俺のほうなのかもしれない。
もうけして足跡を残すことのない後ろ姿を、俺はいつまでも見送っていた。
〈了〉
210102
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