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「今年も来ました。で、今帰りました」
挨拶もそこそこに本題に入っても、お母さんは驚いた様子もない。このやりとりをするのも何度目かだったから。
『そう……』
伝わってくる呟きは、微かに湿っている。それを払拭するかのように、続く言葉の響きは明るい。
『もう、あの子ったら、ほんとばか。死んでまで勇生くんに迷惑かけてほんとにごめんね』
「迷惑だなんて」
応じながら再び窓の外に視線を移す。少しずつ遠ざかる息吹の背中。昔何度もそうやって見送った背中。
昔と違うのは、去って行くその足下の雪の上に、足跡が残らないこと、だった。
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